山奥に、心霊スポットとして有名なトンネルがあった。話によれば、昔、そのトンネルで交通事故に遭った女性が亡くなり、彼女の霊が今もトンネルを彷徨っているという。
ある夜、友人のケンジとユウトはドライブの目的地としてそのトンネルを訪れることになった。ユーモアと興奮を交えた話をしながら、車はトンネルに入っていった。
トンネルの中は真っ暗で、ヘッドライトだけが前を照らしていた。ケンジが冗談交じりに「このトンネル、本当に心霊スポットだったらどうしよう」と言ったとたん、ユウトが「おい、バックミラー見てみろ」と青ざめた顔で言った。
ケンジがバックミラーを見ると、遠くの暗闇の中にぼんやりと白い服を着た女が立っていた。本来なら、その距離と暗さで何も見えないはずだった。しかも、彼女はゆっくりと、ゆらゆらと車に近づいてきた。
慌てたユウトは「アクセル踏め!早く!」と叫んだ。ケンジも慌ててアクセルを踏み込んだが、どれだけスピードを上げても、女の姿はバックミラーから消えなかった。逆に、彼女の姿はどんどん大きく、近くなっていく。
心臓が飛び出るような恐怖を感じながら、とうとうトンネルを抜けることができた。息を整えながら山を下り、近くのコンビニに車を停めた。二人はしばらく言葉を交わさずにただ呼吸を整えていた。
その後、ユウトが「後部座席見てみろ」と低い声で言った。ケンジが後部座席を見ると、手形や水のようなものでシートがびっしょりと濡れていた。
「これは…」ユウトが言いかけると、ケンジはすぐに理解した。トンネル内で見た女が、彼らの車に触れた痕跡だった。二人はシートに残った手形や水滴を見つめながら、その場を立ち去ることはできなかった。