村の外れに、古びた石の井戸があった。その井戸は、村の人々から「ささやきの井戸」として恐れられていた。井戸の近くに立つと、深い部分から誰かがささやくような声が聞こえるというのだ。
ある夜、村で行方不明になった子供たちの話題で騒ぎになっていた。大人たちは捜索隊を組み、子供たちを探していた。その中で、若者のタカシは、「ささやきの井戸」の近くを探してみることになった。
夜の闇が深まる中、タカシは井戸の近くにたどり着いた。彼の耳にも、確かに深くからささやくような声が聞こえてきた。不安ながらも、タカシは井戸の縁に耳を近づけてみた。
「助けて…」という、か細い子供の声が聞こえてきた。タカシは驚き、急いでロープとバケツを使って井戸の中を探ることにした。
しかし、どれだけ探しても子供の姿は見当たらなかった。それどころか、ささやく声も聞こえなくなってしまった。
不安を覚えながらも、タカシは井戸をあきらめ、村に戻ろうとした。その時、後ろから再び「助けて…」という声が聞こえてきた。
振り返ると、井戸の中から数人の子供たちが、真っ白な顔でこちらをじっと見つめていた。彼らの体は半透明で、足元からはゆらゆらとした青白い炎が燃えているようだった。
恐ろしさに声も出せず、タカシはその場から逃げ出すように村へと駆け帰った。
村の長老にそのことを話すと、長老は深く頷いた。「それは、昔この村で行方不明になった子供たちの霊だ。彼らは井戸の中で亡くなったと言われている」と長老は語った。
その後、村の人々は井戸を封印し、二度と近づかないようにという決意を固めた。しかし、夜中には今でも、遠くで「助けて…」という声が聞こえるという…。