田中家は都心の賑やかさから逃れ、田舎の古民家へ引っ越してきた。引っ越し作業中、夫の健一が屋根裏に何かを見つけた。「おい、これ見てみろ」と妻の美紀に呼びかけると、彼女は驚いた顔でその物体を見つめた。
それは古びた人形。着物をまとい、細い黒い瞳が少し悲しそうに見える。娘の菜々子はすぐにその人形を気に入り、「これ、私の部屋に飾りたい!」と言った。美紀は少し躊躇ったが、菜々子の目を見て断れずにいた。
初日は何も起こらなかった。しかし、翌日、家族が目を覚ますと、人形はリビングのテーブルの上に鎮座していた。健一は「冗談はよせよ」と笑いながら言ったが、家族の誰もその夜リビングには行っていない。
次の夜、美紀は夜中に足音を聞いた。廊下を覗いてみると、人形が一歩一歩と動いていた。その姿を見た美紀は叫び声を上げ、家族を起こした。しかし、健一や菜々子がリビングに駆けつけると、人形は元の場所に戻っていた。
怖くなった家族は、その人形を外に捨てることに決めた。しかし、翌朝、玄関の前にはその人形が座っていた。そして、家の中には不可解な出来事が次々と起こり始める。水道の蛇口が自動で開く、テレビが勝手につく、家の中に冷たい風が吹き抜けるなど。
ある晩、家族が集まって話し合った結果、この家を去ることを決意する。荷物をまとめて家を出ると、古民家の窓に、人形が立って手を振っている姿が見えた。
田中家は二度とその家には戻らなかったが、近隣の住民によれば、夜中には今でもその家の中から子供の笑い声や遊び声が聞こえてくるという。