新たに独立した若い男、健二は、都内の古びた団地に新居を構えた。家賃が安かったために選んだこの団地、しかし、周囲の住民からは「四階には絶対に行くな」と忠告された。団地には四階が存在していなかった。エレベーターにも「4」のボタンはなかったし、階段を上っても三階の次は屋上だった。
ある晩、健二は帰宅するとエレベーターの故障で使用できず、階段で三階まで上がった。しかし、上り始めると、なぜか前に四階へと続く階段が現れた。興味本位でその階段を上がると、廊下の先には一つの部屋が存在していた。扉には「402」と書かれている。
健二はドアをノックしてみると、中からは「入って」という女性の声。不思議に思いながら、彼は部屋の中に足を踏み入れた。
部屋の中には、中年の女性が一人座っていた。女性は健二に微笑みながら、「やっと誰かが来てくれた」と言った。部屋の中は時間が止まったように古びた家具や写真が並んでいた。
「こちらは、四十年前の団地の四階よ」と女性は言った。彼女はかつてこの団地に住んでいたが、ある事故で亡くなってしまったと告白した。団地は彼女の死後、四階を封鎖し、それ以降誰も住むことがなかったという。彼女はこの部屋に閉じ込められ、訪ねてくる人を待ち続けていたという。
健二は彼女の話を聞きながら、同情し、この場所を離れようとした。しかし、出口のドアが閉じられており、外へ出ることができなかった。
女性は健二に向かって、「私を一人にしないで」と言い、彼を引き留めた。健二は必死に逃げようとしたが、部屋の中はどんどん暗くなり、彼の意識は遠のいていった。
翌日、健二の姿は団地から消えていた。住民たちは彼が四階の部屋を訪れ、二度と戻らなかったことを知っていた。新たな住民が引っ越してくるたび、彼らには「四階には行かないように」と忠告が繰り返された。しかし、時折、興味本位で四階を訪れる者が現れ、彼らはこの団地から姿を消していった。
四階の部屋には、今もあの女性と、彼女の部屋を訪れた者たちの魂が閉じ込められていると言われている。