夏休み、私の親友・タクヤと二人で、地元の山にキャンプに出かけることになった。この山は以前、遭難事故があったという噂があり、少し冒険心をくすぐられる場所だった。
「ここなら誰も来ないだろうし、静かでいいね」とタクヤが言いながらテントを張った。私たちは火を起こし、焼き肉を楽しみながら星空を眺めた。
しかし、夜が更けると、遠くから何かの声が聞こえてきた。「たすけて…たすけて…」。最初は風の音かと思ったが、確かにその声は近づいてくる。
「何の声だろう…?」とタクヤが不安そうに言った。私たちは怖くなり、テントに駆け込んだ。
しかし、その声はテントのすぐ外まで近づいてきていた。「たすけて…」という声が繰り返される中、何かがテントの布を引っ張り始めた。タクヤと私は震えながら、中から外を覗き見ると、灰色の古びた服を着た女性が立っていた。その女性の顔は、苦しむ表情で目も口も大きく開いており、泥だらけの姿だった。
「遭難した…助けてほしかった…」と女性は言いながら、テントをゆっくりと近づいてきた。
私たちは恐怖で何もできず、ただ震えながらその場を固まっていた。そして、女性の手がテントのジッパーに触れると、突然、声が止まった。何も音がしなくなり、静寂が広がった。
タクヤが勇気を振り絞ってテントの外を覗いたところ、女性の姿はなく、代わりに泥だらけの古びたシューズが一つ、テントの前に置かれていた。
私たちは急いで山を下りた。その後、地元の老人にそのことを話すと、数十年前に遭難した女性がいたと教えてもらった。その女性は一人ではなく、恋人と一緒に山に入っていったが、二人とも行方不明になったという。
「あの女性は、今でも恋人を探しているのかもしれない」と老人は言った。
私たちが山で目撃したものが、その遭難した女性の霊だったのかは分からない。しかし、その後も夜中にその声が聞こえることがあるという噂が立ち、その山には近づかないようにと地元の人々に言い伝えられている。