山の中腹に立つ古びた廃屋の噂を知らない人は町にいなかった。何十年も前に、一家が住んでいたが、一家全員が行方不明になった夜のことを今でも住民は語り継ぐ。彼らが消えた夜、突如として廃屋の窓から青白い光が放たれ、高い悲鳴が山を越えて響いたと言われている。
高校生の健太は、友人たちと夜の廃屋訪問を企画した。勇気を試す冒険心と、都市伝説の真偽を確かめる興味から、彼らは深夜、廃屋へと足を運んだ。
家の中は時間が止まったような静寂に包まれていた。ホコリまみれの古い家具や食器が散らばっており、何か悲しい出来事があったのだろうと、健太たちは感じた。
その中で、健太の目を引いたのは、壁に掛かっている大きな鏡だった。彼は鏡を覗き込んだが、そこには彼自身の姿ではなく、別の若い男の姿が映っていた。男は健太をじっと見つめ、無言で手を振った。
健太は驚き、後ろに下がった。そして、友人たちにその事を話そうとしたが、彼らの顔は何か恐怖で歪んでいた。彼らも鏡に映る自分の姿ではない家族の姿を見ていたのだ。
鏡の中の家族は、一つずつ手を合わせ、こちらを見つめながら、ゆっくりと頷いた。その瞬間、廃屋の中に冷たい風が吹き込んできた。部屋の隅からは、悲しみに満ちた叫び声が聞こえてきた。
健太たちは急いで廃屋を出ようとしたが、出口がどこにあるのか分からなくなってしまった。迷路のような廊下はどんどん複雑に絡み合い、進むたびに彼らの意識は混乱していった。
最終的に健太は、自分一人だけが廃屋の中に取り残されていることに気付いた。そして、彼の耳には、鏡の中の家族の声が聞こえてきた。
「ようこそ、我々の家族へ。」
健太はその声の方へ歩みを進めた。彼は何故かその声に導かれ、心からその家族と一緒になりたいと思うようになっていた。
翌日、町の人々は廃屋に健太たちの姿を見つけることができなかった。ただ、その廃屋の窓からは、再び青白い光が放たれていた。
町の人々は、健太たちが鏡の家族の一員となったことを察知し、彼らのことを悲しみながら、再び廃屋には近づくことを決してしないと誓った。
