都会の喧騒から離れた田舎の村に、一本の有名なトンネルがあった。そのトンネルは、かつて多くの人々が事故死したという歴史を持ち、夜になると様々な心霊現象が噂されていた。
青春時代を過ごしていた夏の日、私は高校の親友・ユウトと肝試しにそのトンネルへ行くことになった。夜の10時、私たちは車でトンネルに向かった。月明かりが煙るような空気を照らし出し、その中でトンネルの入り口が闇に飲み込まれているように見えた。
「怖いな。」ユウトが小さく声を出した。
「だろう?」私は得意げに笑いながら応えた。
車をトンネルの手前に停め、私たちは手をつないでゆっくりと中に入っていった。トンネル内は湿った空気で満ちており、私たちの息遣いが響いていた。途中、何度か奇妙な気配を感じることはあったが、特に何も起こらずに進むことができた。
しかし、トンネルを半分ほど進んだところで、遠くの方から女の子の笑い声が聞こえてきた。ユウトと私は互いに顔を見合わせ、不安げに囁き合った。
「聞こえた?」ユウトが小さな声で聞いた。
「うん、聞こえた。早く出よう。」
私はユウトの手を引きながら、急いでトンネルを進もうとした。しかし、進むほどに奇妙な気配が強くなり、周りの空気がどんどん重くなってきた。
突如、ユウトの手が私の手から滑り落ちた。焦って振り返ると、ユウトの姿がどこにも見当たらない。どうしても彼の姿が見えず、慌てて名前を呼んでみたが返事はなく、静寂がトンネルを包んでいた。
「ユウト!ユウト!」
絶叫しながら彼を探し続けたが、彼の姿はどこにも見当たらなかった。どうにかして外へ出ようと思い、トンネルの出口を目指した。
出口に近づくと、月明かりの下にユウトの影がぼんやりと立っていた。しかし、何かが違った。彼の背中からはじょりじょりとした音が聞こえてきた。そして、その影がゆっくりと振り向くと、彼の顔は完全に白く、目も鼻も口も存在しない無地の面のようだった。
恐怖で凍りついた私の前で、ユウトの姿はゆっくりと消えていった。
数日後、警察がトンネルで捜索を行ったが、ユウトの姿はどこにも見当たらなかった。そして、その事件以降、彼の姿を見た者は一人もいない。
トンネルの噂はさらに増え、多くの人々が訪れるようになった。しかし、真実は私だけが知っている。あの夜、私が見た恐ろしいユウトの姿を、決して忘れることはできない。