四谷は、東京の中心部で働くサラリーマン。仕事が終わるのはいつも深夜。終電ギリギリの電車に飛び乗るのが日常となっていた。
ある日も四谷は、終電のギリギリに駅に駆け込んだ。いつものように車内でうとうとしていた。普段ならば、自分の最寄り駅で目を覚ますのだが、今夜は違った。
「次は『蒼の駅』、『蒼の駅』に到着いたします」
四谷は眠気をこらえて、この未知の駅名に気づいた。彼が通勤している路線に、そんな駅は存在しないはずだった。興味本位で、四谷はその駅で降りることにした。
ホームは青白く照明され、とても静かで人の姿は見当たらなかった。ホームから階段を上がると、古びた住宅街が広がっていた。時が止まったかのような、不気味な静寂が広がっていた。
四谷は心臓の鼓動だけが耳に響く中、住宅街を歩き始めた。しばらく歩いていると、突然、彼の前に一軒の老朽化した家が現れた。その家の前には、灰色の制服を着た少女が立っていた。
「こちらにお越しになった方は、元の場所には戻れないのですよ」
四谷はその言葉に驚き、慌てて駅に戻ろうとした。しかし、どれだけ歩いても駅は見当たらず、まるで迷路のような住宅街に迷い込んでしまった。
四谷が再び少女の家の前に戻ると、少女は微笑みながら言った。「安心して。こちらの世界に馴染む方法を教えてあげます」
少女は四谷を家の中へと誘導し、彼にお茶を出してくれた。そのお茶を飲んだ瞬間、四谷の記憶は曖昧になり、目が覚めると彼は自分のアパートのベッドの上で目を覚ました。
「夢だったのか…?」と四谷はほっとした。しかし、その日から彼の生活は変わってしまった。仕事を終えて家に帰ると、必ずその灰色の制服を着た少女が彼の部屋に現れた。そして、少女は毎晩、四谷に同じ言葉を繰り返すのだった。
「あの世界からは、逃げられないのですよ」
四谷は逃げるように引っ越しを繰り返すが、どこへ行っても少女は追ってきた。そして、ある日、四谷は姿を消してしまった。
彼の最後の姿を目撃したのは、終電ギリギリの電車の中。四谷はうつむきながら、次の駅を静かに待っていたという。