【怖い話】隙間からのささやき

短編の怖い話



昔々、ある寂れた村に、古びた和風の家が一軒だけ建っていました。この家には、家主の太一と彼の妻、そして小さな娘が住んでいました。家は世代を重ねてきたもので、いたるところに小さな隙間やひび割れが見られました。

太一は、その家を大切にしていましたが、修理費用がないため、隙間が多少あっても仕方がないと諦めていました。しかし、その隙間からは冷たい風が吹き込み、冬の夜には家の中がとても寒くなってしまいました。

ある冬の夜、家族が囲む暖炉のそばで、小さな娘が言いました。「パパ、ママ、あの隙間から誰かが私にささやいてるよ。」

太一と彼の妻は驚き、隙間の方を見ますが、何も見えません。「きっと風の音だよ」と太一は娘をなだめましたが、娘は確かにささやき声を聞いていたのです。

翌日、太一はその隙間を詳しく調べることにしました。しかし、特に異常は見当たりませんでした。それでも娘の安全を考え、隙間を塞ぐことにしました。

しかし、その夜、再び娘が不安そうに言いました。「パパ、今度は壁の中からささやき声がするよ。」

太一は、壁の中を調べることにしました。壁板を外すと、そこには古びた紙の束が隠されていました。太一は驚きながら紙を広げて読むと、それは数十年前の日付が書かれた日記のようでした。

日記の内容は、この家の前の住人が書いたもので、彼が隙間からささやき声を聞いていること、そしてその声が日に日に大きくなっていく様子が綴られていました。最後のページには、「もう耐えられない。私はこのささやき声とともに壁の中へ」と書かれていました。

太一は恐怖に震えながら、隙間と日記に関連があるのではないかと考えました。夜中、娘の部屋の壁をよく聞くと、確かに微かなささやき声が聞こえてきました。

太一は、隙間や壁の中からのささやき声の正体を突き止めるため、神社の神主に相談しに行きました。神主は、家の土地に昔埋葬された人々の霊が、隙間や壁の中からささやいているのだろうと語りました。

太一は、神主に祈祷してもらい、家の隙間や壁の中にお札を貼ることにしました。そして、家族と共に一晩祈り続けました。

翌朝、娘は「もうささやき声は聞こえない」と安堵の表情を浮かべました。太一は娘を抱きしめ、家族と共にこの家で平和に暮らすことを誓いました。

しかし、数年後、太一の家族が家を離れた後、次にその家に住んだ人々も、隙間や壁の中からのささやき声を聞いたという噂が立ち上がりました。そして、その家は今も誰も住んでいない廃屋となり、近所の子供たちが「ささやき声の家」と恐れて近寄らないと言われています。



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