美咲と直人は大学時代の同級生で、卒業後、直人の仕事の都合で遠距離恋愛をしていた。毎晩、お互いの近況を伝え合う電話が二人の日常となっていた。
ある晩、美咲はいつものように直人からの電話を待っていた。時計の針が夜の9時を回る頃、スマートフォンが鳴った。直人からの着信だった。
「もしもし、直人?」美咲が出ると、向こうからの返答は、彼の声とは思えないほど冷たく、低く、重々しかった。
「美咲…。どこにいる?」直人の声は震えていた。
「私? うちにいるけど。どうしたの?声が変だよ?」美咲は混乱を隠せなかった。
「逃げて。今すぐに。すぐに逃げて…」
美咲は驚きで言葉を失った。何が起こっているのか、一切理解できなかった。しかし、彼の声の中に絶対的な恐怖を感じ取った。
その時、もう一つの着信が入った。今度は、LINEのビデオ通話だった。直人からの通話だ。
通話を受けると、画面に映し出されたのは直人の顔。彼の背景には、彼の部屋が映し出されていた。しかし、その部屋には、今の直人とは別の、同じ直人が座っていた。そして、彼は笑っていた。
ビデオ通話の直人が言った。「美咲、心配させてごめん。さっきの電話、冗談だったんだ。遊んでみたかったんだよ。」
しかし、その言葉の背後には、先ほどの冷たい直人の声が重なり、おぞましいほどの恐怖を美咲に感じさせた。
美咲は通話を切り、すぐに警察に通報した。しかし、警察が直人のアパートに駆けつけたとき、彼の部屋は真っ暗で、誰もいなかった。
直人はその後、行方不明となった。美咲は彼との思い出を胸に、彼の帰りを待ち続けている。