【怖い話】続・鳥葬

中編の怖い話



鳥を祀っている神社があると聞かされて、俺と翔一(しょういち)の二人は、その神社に訪れる事になった。俺は毎週、雑誌で怪談ライターをやっており、翔一はカメラマンをやっていた。職種は違うが、互いに頻繁に飲みに行く仲間であり、大学時代からの付き合いなので、互いに名前で呼び合っている仲だ。
翔一は色々な出版社にネタを持ち込んだりしている人間だ。
翔一も今は怪談関連の仕事を行っているらしい。

そういうわけで、俺と翔一の二人は、有名ないわく付きのある神社へと共に向かう事になった。何かスクープになるものがあれば僥倖ものだ。

そして、俺達は例の神社に辿り着いた。

神社が祀っている神様は鳥だ。
何故、鳥なのか? という疑問が湧いて尽きない。

入り口には二体の石像がある。
石像は朽ち果てていて、何年も手入れを怠っているような印象を受けた。石像は、よくよく見ると、人の身体に鳥の頭部になっている。

その神社は鳥が多い。
鳩やカラス、フクロウなど、あらゆる鳥が集まってきている。

境内の先に階段があり、その先には橋がある。
その先にある、立ち入り禁止の場所には行ってはならないと聞かされている。

この神社はいわく付きの場所で、何か不気味なものを祀っているという噂が絶えなかった。

しばらく進んでいくと、俺と翔一の二人は立ち入り禁止の看板を見つけた。

「多分、ここから先かなあ?」
「ああ、何年も前にこの神社の立ち入り禁止場所に行って、女子高生だかが惨殺したいで見つかったって話だろ?」
なんでも、その女の子の学校の校庭で、死体として見つかったらしい。全身の所々を喰われており、顔の至る処が欠損し、内臓が引きずり出されていたとの事だ。警察いわく、鳥の唾液やらなにやらが摂取されたらしい。

橋を渡ると、立ち入り禁止の看板が見えてきた。
ここから先に、何かがあると噂されている。
地元の住民達も滅多にこの中には入らないらしい。

「何か見つけたらスクープだな」
翔一はそう言って、立ち入り禁止の看板の先に進んだ。

鬱蒼とした茂みが続いており、辺り一面からは、鳥の鳴き声が響いてくる。時刻は昼の2時頃だ。それでも、暗く不気味な雰囲気を醸し出している。

「なあ、潤(ジュン)、誰かに見られている気配がしないか?」
翔一はそんな事を俺に訊ねる。俺は首を横に振るが……。
確かに、何かに見られている感じがする。それも一人ではなく、複数といったところか。視線をつねに感じる。

しばらくして、高台らしき場所に辿り着いた。掃除は一切、行き渡っていない。

「おい、何か見つかったぞ」
翔一は俺に手招きをする。
高台から、何かが見えてきた。それは、石で出来た祭壇だった。

俺達二人は、その祭壇にくぎ付けになる。
何か奇妙な儀式を行っている人物がいた。

顔に鳥の面のようなものを被って、神主の着る服装をしている。その人物は、祭壇の上に何かが集まっている。それは鳥だった。様々な種類の鳥が集まって、何かをついばんでいる。どうやら、それは人間の死体だった。白衣の着物を着せられた死体達が大量の鳥によって全身をついばまれている。眼球をほじくられ、臓物を引きずり出されている者もいた。死体の年齢や性別は多種多様で老人から、若い女、赤子まで様々だった。

翔一はその光景を、見つからないようにシャッターに納めていた。俺もスマートフォンのカメラ機能で、ぱしゃぱしゃと撮影する。SNSに投稿すれば猟奇的な犯罪の証拠写真になるだろう。

ふと。
俺は死体と眼が合った。
若い女の死体だったと思う。
彼女は瞬きをして、にぃ、と歯茎を剥き出しにして笑った。
…………、生きているのか?
俺は絶句した。

翔一は俺の肩をつかんだ。
神主らしき人間と眼が合った、と呟いた。

俺達は逃げる事にした。
だが、元来た道を辿ると、迷ってしまい、どうやら、俺達二人は神社の敷地内の奥へと進んでいってしまったみたいだった。鳥の泣き声が背後から聞こえ、鳴りやまなかった。

どれだけ走り続けたのだろうか。
俺達は社(やしろ)に辿り着いた。
小さな拝殿だった。この鳥を祀る神社には拝殿が別の場所にあるので、末社だろうか?

「どうする? しかし、あれは何だったんだ?」
俺は保身の為に、自分のやっているSNSにその画像を投稿する事にした。予約投稿にして、夜頃に投稿出来るように設定した。

空を見ると、鳥が集まってきている。
カラスや鳩、他にも名前が分からない鳥が大量に俺達二人の周りに集まってきていた。

「なあ、とにかく、ここから何とかして逃げよう……。この神社を出よう……」
翔一は明らかに蒼ざめた顔をしていた。

社の中からは、何かの音色のようなものが聞こえてくる。まるで、それは揺り籠の中で眠っていた時のような安らかな音色だった。

「もし」
俺達に声を掛ける者がいた。

女だった。
巫女装束を着ている。
年齢は二十代後半くらいだ。
がちゃがちゃと、鈴のようなものを付けていた。

「もし。お客さんですか?」
女は俺達に訊ねる。

「ここに迷い込んでしまったんです。帰る場所の道案内をしていただけませんか?」
翔一は必死で言う。

「何か、見ませんでしたか?」
女は訊ねた。口元は笑っていたが、眼は笑っていなかった。

翔一は必死で首を横に振る。彼の全身から冷や汗が出ていた。俺はそれを見ながら、もっと自然体で否定出来ないのかと心の中で舌打ちした。

「喉が渇きませんか? よければ、甘いものでも食べていってください」
巫女姿の女はそう言うと、社の中へと入る。そして、盆の上に切り分けた桃が乗っていた。それを俺達の前に出す。

「この社の、更に上の方で実った桃です。この先には桃の木があるのですよ」

翔一はびくびくしながらも、桃を口にした。
女は冷水も渡してくれた。

俺はとてもじゃないが、女が出した桃を口にする事は出来なかった。

しばらくして、女は帰り道の場所を案内してくれた。その際に、決して後ろを振り向かないように告げた。俺達は女の言われるままに、後を付いてくる。途中、鬱蒼とした森の中に入ると、夜のように暗くなった。女は先頭を歩き道案内をする。ぎゃあぎゃあと、鳥達の喚き無く音が聞こえた。

「そう言えば、私は次の供物(くもつ)になるのですね…………」
女は俺達の顔を見ずに淡々と呟いていく。
「ただし、別の誰かが供物になれば、私は次に回されます。そして、私は三ヵ月は案内人として生きる事を許される。ふふっ、もし、貴方達、ここの神社に興味があって入り込んだのでしょう?」
女の顔は見えないが、笑っているのだけは分かった。

「贄(にえ)になる条件は、この場所で実ったものを口にする事。あるいは儀式に魅入られる事。ふふっ、お客様方、私はまだ生きていたい。生きながら、鳥達に内臓を引き抜かれ、顔をほじられる。その苦痛は、香によって、快楽さえ伴うと聞きますが……私はまだ現世の景色を楽しんでいたい」
女は何を言っているか分からなかった。

何処となく、俺は鬼を彷彿とさせた。
辺りは暗い、俺はスマートフォンを手にして時刻を確認する。腕時計は持っていない……。まだ午後の四時前だ……。なのに、真夜中のように辺りは暗い。異世界にでも入り込んだかのようだった。眩暈も頭痛もする。俺は先ほどから背後の気配が気になって、スマートフォンのカメラ機能で鏡のように背後を映した。

背後には先ほどから一緒に付いてきている筈の翔一がいなかった。
代わりに大量の鳥達が俺を監視しているかのように、枝の上から覗き込んでいた。

「お鳥様達は、私達の神様です。それによって、私のご先祖様達は繁栄された。お鳥様に生贄を捧げる事によって、この辺りの者達は栄えてきたのです。それは戦後も続きました……。さあ、もう出口ですよ。此処で見聞きした事は決して口外しないように」

女はそう言って、右手の人差し指を指し示す。
大樹の間の中に、大きな眩い光が見えた。
俺は光の先に向かう。

その向こう側には、公園が見えてきた。
神社の周辺にあった公園だ。
俺は振り返る。

女の姿は無かった。
背後にはあったのは、鬱蒼とした雑木林だった。

それから数日後の事だ。

翔一の死体が見つかった。
警察から電話が来て、確かに翔一の死体だった。彼は全身の肉を鳥によって喰われていた。死体安置所で翔一の顔を見せられたが、右半分は原型を留めていなかった。ただ、左半分はかろうじて翔一だと分かった。腹も胸も裂かれて、心臓も腸も啜られていたらしい。頭蓋骨にも穴が開いて脳味噌も喰われた形跡があるという。……そして、何よりも、生きながらにして、鳥にむさぼり喰われたのだと警察は言っていた。

聞いた話によると、この事件は、新聞やニュースでの報道も控えられたという。その理由は分からない。

更に、俺がSNSに投稿したあの画像はサイトの運営側から消されていた。単にグロテスク過ぎる画像故にサイトの方針的に消されただけかもしれないが、俺は例の写真を今も持っている。

俺は再び、この写真を何処かにアップロードしたり、それこそ新聞社などに持っていく勇気は無い。何故なら、未だ鳥達の気配を感じるからだ……、いつも何処かで、電信柱の上や、屋根などから、俺を見張っている小さな大量の視線を感じる…………。

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【怖い話】鳥葬

2018年9月16日



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