ある夏の日、私と友人たち数人で山奥にある古びた旅館へ行くことになった。その旅館は私の祖父の知人が経営しているもので、今はほとんど客が訪れることがないと聞いていた。
到着すると、旅館の老主人が出迎えてくれた。一歩足を踏み入れると、なんとも言えない古びた雰囲気とともに、しっとりと冷たい空気が私たちを包んだ。私たちは部屋に通され、その後は温泉に入ったりしてのんびりと過ごすことに。
しかし、夜になって不穏なことが起こり始めた。風が吹き、木の枝が窓ガラスに当たる音。そして、旅館の中から聞こえてくる、何者かの足音。私たちは怯えながら耳を澄ました。そのとき、ふと廊下に目をやると、一つの部屋の扉に大きな紙のお札が貼られているのに気づいた。
友人の一人が、冗談交じりに「あれ、何のお札だろうね?」と言った瞬間、その部屋の中から女の哭き声が聞こえてきた。私たちは驚き、お互いに顔を見合わせた。
翌朝、旅館の老主人にその部屋のことを尋ねると、彼は顔を青くして答えた。「あの部屋は、昔の女将が亡くなった部屋だ。彼女は恋人との約束を破り、この旅館で一生を終えた。悲しみのあまり、彼女の魂はこの部屋に留まってしまった。そして、彼女の哭き声を聞いた者は、必ず不幸が訪れるという…」
私たちは急いで旅館を後にした。しかし、その後、私たちの中で次々と不幸な出来事が起こり始めた。友人の一人が交通事故に遭い、もう一人は突如として失踪してしまった。
私はその後、祖父の知人に連絡を取り、あの部屋のお札のことを尋ねた。彼は「あのお札は、彼女の魂を封印するためのものだ。もし、あなたたちがそれを剥がしたり、中を覗いたりしていなければ、大丈夫だろう」と答えた。
しかし、私はあの夜、部屋の中を覗いてしまっていたのだ。部屋の中には、女将の遺品らしきものと、彼女の恋人からの手紙が散らばっていた。手紙の最後には「必ず、あなたのところへ戻ってきます」と書かれていた。
私はその手紙を持ち帰ってしまっていた。そして、ある日、自宅の部屋でその手紙を読んでいると、背後から女の声が聞こえてきた。「待っていました、あなた…」
それ以後、私は毎晩、彼女の哭き声とともに、彼女の恋人との悲しい物語を夢に見るようになった。