病院の深い部分に、ほとんどの職員が足を踏み入れることのない部屋があった。それは「霊安室」と呼ばれる部屋で、一説には亡くなった患者たちの魂を安らげるための部屋だと言われていた。しかし、この部屋には闇の裏側に隠された秘密があった。
美咲は新しくこの病院に勤務することになった若い看護師だった。彼女は先輩看護師から、深夜の休憩時間には霊安室に近づいてはいけないという不文律を教わった。好奇心旺盛な美咲は、ある日、その部屋の真相を知りたくなり、深夜の静寂の中、その部屋へと足を運んだ。
霊安室のドアを開けると、中央に大きな手術台が置かれていた。そして、その手術台の上には、切り取られた人間の部位が無造作に置かれていた。美咲は恐怖に震えながら、その部屋で何が行われているのかを理解し始めた。
その時、部屋の後ろから男の声が聞こえてきた。「新しい材料が増えるな」という声だった。振り返ると、病院の主任医である田中が立っていた。彼の目は異常な輝きを放っており、その手には鋭いメスが握られていた。
田中の笑い声がますます大きくなってくる中、美咲は自分の意識が朦朧としてきているのを感じた。彼女の視界の中には、自身の体の部位が次々と取り除かれてゆく光景が映し出されていた。しかし、身体の痛みは不思議と感じなかった。それは、この部屋に漂う奇妙な香りが、彼女の感覚を麻痺させていたからだった。
「これで、新しい研究の材料が増える。感謝してもらいたいね、美咲ちゃん」と田中はにっこりと微笑んだ。
美咲の意識はどんどんと遠のいてゆく。だが、その意識の中で、彼女は霊安室で過去に犠牲となった多くの人々の声を聞くことができた。
「助けて…」「なぜ私たちなの…」
彼女はその声たちと共に、自分もこの部屋の犠牲者として、永遠に囚われてしまうのだと感じた。
その後、美咲が行方不明となったことが病院内で囁かれるようになった。彼女と親しかった看護師たちは、彼女が夜勤中に何かに怯えて逃げ出したのではないかと推測していた。しかし、真相を知る者は一人もいなかった。
ある日、新入職の看護師が、休憩時間に先輩たちから霊安室の噂を聞いた。彼女もまた、好奇心からその部屋を訪れることになる。
夜の静かな病院内を一人で歩く彼女の耳に、遠くから泣き声が聞こえてきた。声のする方向へと足を進める彼女の前に現れたのは、霊安室のドアだった。そして、そのドアがゆっくりと開き、部屋の中央には手術台が。その上には赤黒く変色した布が掛けられており、その布の下から泣き声が聞こえてくる。
彼女が布を取り払うと、そこには美しい看護師の姿が。それは美咲だった。
「助けて…。この部屋、彼らが実験するための部屋なの…。次は…あなたの番よ…」
美咲の顔は歪んでおり、その口元からは血のようなものが滴り落ちていた。新入職の看護師は恐怖で動けなくなったまま、背後から迫る田中の足音を感じるのだった…。