【怖い話】遺した時計

短編の怖い話



都会の雑踏から遠く離れた、古びた町家に住む祖母から、私はある古い時計を受け継いだ。彼女は常に「この時計は特別だから、大切にしてね」と言っていたが、具体的な理由は話してくれなかった。

祖母の葬儀の後、私はその時計を自宅のリビングに置いた。翌日の夜、奇妙なことが起こった。夜中の12時を迎えると、時計の秒針が逆回りし始めた。その瞬間、部屋の照明が一時的に暗くなり、気づくと私は10年前の自分の部屋に立っていた。幼いころの私が、亡き祖父と楽しそうに話をしている場面が目の前に広がっていた。

ほんの数分で現実に戻ったが、その出来事は私を驚かせた。翌夜も同じ現象が起こり、今度は祖母と過ごした思い出のシーンが再生された。

しかし、3日目の夜、再び秒針が逆回りを始めると、私の視界は真っ暗となり、何も見えなくなった。闇の中で何か冷たいものが私の足を掴んできた。それは祖母の形をした何かだったが、その目は真っ白で、声も発せられない。

私はその場から逃げ出すように部屋を出た。その後、時計は手放すことに決め、再び祖母の家へ戻した。

数日後、町の長老から祖母の若いころの話を聞かされた。彼女はかつて、死んだ祖父ともう一度会いたい一心で、この時計を使って過去へ戻ろうと試みたという。しかし、ある日突然、彼女は時計の力に引きずり込まれてしまい、数日間姿を消していたという。

私が経験したこと、それは祖母も同じように経験したのだと気づいた。その時計には過去への郷愁を感じさせるだけでなく、何か恐ろしい力が宿っているのかもしれない。私は二度とその時計に触れることはなかった。



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