新居を求めて物件を探していた真紀は、市内の古い地区に立つ、一見すると普通の一軒家を見つけた。価格も手頃で、内覧時も何も問題は感じなかった。ただ一つ、奥の部屋だけが歪んで見えた。真紀は初め、目の錯覚かと思ったが、どうもその部屋だけが正確に直角でないようだった。
入居後、その歪んだ部屋は物置として利用していた。特に気にすることもなく生活を始めたが、ある夜、突然その部屋から子供の泣き声が聞こえてきた。驚いた真紀は部屋を確認したが、何も異常は見当たらなかった。
次の日、地元の老人にその家の歴史を尋ねると、昔、その家で小さい子供が事故死したという話を聞かされた。そして、その部屋こそがその子供の部屋だったという。真紀は戦慄したが、そんな古い話を真に受けるわけにもいかないと自分を納得させた。
しかし、その後も夜な夜な子供の泣き声や笑い声がその部屋から漏れ聞こえてきた。ある晩、声に耐えかねて部屋のドアを開けると、部屋の中央に小さな男の子が立っていた。男の子は真紀をじっと見つめ、「ここは僕の部屋だよ」と言った後、壁に吸い込まれるように消えていった。
真紀は震えながら部屋を出た。その夜、霊感が強いと評判の友人・綾香に連絡を取った。綾香はその部屋を見ると、顔色を失い、「ここは… 彼の場所。彼を放っておけなかったのね」と呟いた。綾香の体調は急激に悪化し、「彼に謝って。そして、この家を出なさい」と言い残し、真紀の家を出て行った。
真紀は翌日、その家を売ることを決意したが、家を出ることは許されなかった。その晩、歪んだ部屋の扉がゆっくりと開き、中から伸びる冷たい手が真紀の足を掴み、部屋の中に引きずり込んだ。
真紀の姿を再び見た者はいなかった。