隆也はある日、家の近くの古木に偶然手を触れた。その瞬間、彼の耳には過去の出来事や亡くなった人々の声が聞こえてきた。それは、その場所で起こった出来事や、樹木がその年月で目撃したことの断片のようだった。
初めは驚きつつも、それが彼の特別な能力であると受け入れ、隆也はそれを楽しむようになった。彼は他の樹木にも手を触れ、それぞれの木が持つ歴史や記憶を感じ取ることができた。
しかしある日、近くの公園の老木に手を触れた隆也は、恐ろしい出来事の断片を感じ取った。木の下で数十年前に行われた殺人事件の瞬間や、犠牲者の最後の声、そして犯人の正体までが明らかになった。それは隆也の近所に住むある老人で、彼はその瞬間からその老人を避けるようになった。
数日後、その老人が隆也の家を訪ねてきた。老人は彼に向かって「君も私の秘密を知ってしまったのか」と低い声で囁いた。隆也は恐怖で言葉も出なかった。老人は続けて、「その木に触れた者は、私の手にかかる運命なんだ」と告げた。
数日後、隆也は行方不明となった。彼の家族や友人たちは必死に捜索を続けたが、彼は二度と姿を現すことはなかった。
そして、彼の失踪から数年後、近くの公園の老木に新しい声が加わった。それは隆也の声だった。彼の最後の瞬間や、彼が何を感じ、どのように絶望したのかが、樹木の記憶の中に刻まれていた。