おじいちゃんの話
今回は私のひいおじいちゃんがいつも話してくれていた話をしたいと思います。始める前に、私のひいおじいちゃんについて説明します。私のひいおじいちゃんは、太平洋戦争で陸軍の戦車兵でした。それも戦車を運転する運転手だったそうです。
ひいおじいちゃんによると、それはルソン島での戦いで起きたことだったそうです。ルソン島の戦いといえば、恐ろしい激戦地だったという話をよく耳にします。ここからはひいおじいちゃんの視点で文字にしていきます。
1945年6月の何日だったか今では思い出せないほど昔のことです。その日は雨が降っていて、ただでさえ高いフィリピンの気温に加え、戦車のエンジンの熱でひどく蒸し暑かったのを覚えています。
陽も傾いてくる頃に、戦車長が戦車から周りを確認するために顔を出したそうです。ですが戦車長は味方の戦車も敵の戦車もいっていたそうです。私はそんなバカなことはないだろうと思い、操縦席の細い窓から覗きました。ですが数メートルしか照らせないヘッドライトの他には何の光も見えなかったんです。
私たちはしばらく前進していると、急にガクンと衝撃が来て戦車が停止してしまいました。それもエンジンが止まったわけではなく、なんかにぶつかってつっかえような感じだったんです。
おかしいな・・・溝にはまってしまったか?と怪しんでいた時に、突然四方八方から激しい砲撃や銃声が聞こえて来たんです。車内に響く跳弾の音に、私たち戦車の中の4人全員は震え上がっていました。何分・・いや何十分ほど経った頃でしょうか。それだけ時間が経っても一向に音が無くなる気配はありません。
さらに時間が経ちました。戦車はいつまで経っても無事で、動力にも乗組員4人にも何ら異常はなかったんです。私は再び前進しようとしました。ですがまだ前進することができません。
すると、跳弾の音が少し止まって音楽が聞こえてきたんです。この音楽については後で触れていこうと思います。銃撃が治まってきた頃に、砲手の一人が外の様子を見ると行って、ハッチを少し開けてから身を乗り出しました。
ここでやっと全員が異常に気づき始めたんです。その砲手は急に笑い出して、狂ったように軍歌を歌い始めました。異変気づいたもう一人の砲手が、半身外に出ている砲手を捕まえると、その砲手も狂ったように軍歌を歌い始めたんです。
二人の砲手が涙を垂れ流しながら狂ったように砲撃を始めたので、私と後一人は唖然として見ていたんです。私はどうしたのかと聞くために、操縦席を立って二人に詰め寄りましたが、もう完全に乱心していました。操縦席に戻ろうとしたところで、私は恐ろしいものを見た気がして、すぐに後ろを向いたんです。
はっきりとは見ていませんが、操縦席の覗き窓に何か景色以外のものがありました。それは禍々しいものであることに気づきました。上で軍歌を歌っている原因はこいつだと直感しました。まだ正気を保っているもう一人の仲間もそれに気づいて口をパクパクさせています。
私はそれを見ないように、後ろを向きながらアクセルを踏みました。戦車は走っているのか止まったのかわかりませんでしたが、曽爾各前進するように努力しました。私はとにかく恐ろしくて無我夢中でした。そのうち、また銃声が聞こえてきたんです。
「助けてくれぇ」さっきまで正気だった仲間も泣き出しました。私も同じでした。銃声に紛れて、あの軍歌の音楽が聞こえてきました。みるみるうちに音量が大きくなっていったんです。私は全てを諦めて耳を塞いが瞬間に、」とてつもない衝撃が走り私は気を失いました。
「大丈夫か?」と言われて私は目を覚ましました。もう元の戦場の音しか聞こえなかったんです。声をかけてくれたのは隣にいた仲間でした。「もう大丈夫だ、安心しろ」と言われて後ろを見ると、砲手の二人は自決をした後でした。いつ自決をしたのかはわかりませんでしたが、二人の近くには拳銃が落ちていたんです。
私は自分が乗っていた戦車を見ると、また声が出てしまいました。忘れもしません。戦車は血みどろだったんです。そして戦車のカタパルトの部分には星条旗の切れ端が挟まっていました。その後私たちは友軍の戦車に助けられました。
後で聞く話によると、所属していた戦車隊は私たちを除いて全滅していたらしいんです。戦後、あの時聞いた音楽は『星条旗よ永遠なれ』だったと知りました。
ここでひいおじいちゃんの話は終わるんです。私は疑問が湧いてひいおじいちゃんに聞きました。
あの禍々しいものは一体何だったの?
ですがその疑問に答えてはくれませんでした。それはもう忘れてしまったのか、もう思い出したくないのかはわかりませんでした。ですが、ひいおじいちゃんの手が小刻みに震えていたことを覚えています。
今ではあの話を聞くことはできません。一ヶ月前に亡くなってしまったんです。私は聞いた禍々しいものは、生き霊ではなかったのではないのかと思っています。それも一人ではなく何万人もの生き霊。それが禍々しいものの招待だと思うと納得できました。
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