【怖い話】夏祭りの夜に

実話の怖い話



子供の頃、夏休みになると必ず祖父母の家に行っていました。僕は東京生まれの東京育ちでしたから、長期休みに祖父母の住む田舎に行くのが楽しみで仕方がありませんでした。
海で泳いだり、畑仕事を手伝ったり、庭で花火をしたり…今の子供にとっては刺激が少ないかもしれませんが、当時の僕にとってこれほど刺激的なことはありませんでした。
中でも楽しみだったのは、夏祭りです。
祖父母の家の近くに神社があり、僕が行く頃に夏祭りをやっていたんです。
屋台が建ち並び、見たことの無い演し物なんかも来たりして、毎年連れて行ってもらいました。
思い出深い夏祭りですが、小学三年の夏祭りだけは、生涯忘れられないでしょう…

8月中旬。両親と一緒に父の実家がある田舎へと行きました。夏休みの宿題を少しだけ持って…でも、宿題をやる気なんてありません。また花火をして畑仕事を手伝って、夏祭りを楽しむんだとワクワクしていましたから。
祖父母の住む田舎は若い人が少なく、町中を歩いていても年寄りばかりが住んでいる印象でした。なので僕が行くと「誰々さんとこのお孫さんかね、大きくなったねぇ」と声をかけられたものです。
毎年のように海水浴をし、新鮮なトマトやスイカを収穫し、祖父と釣りにも行きました。滞在して数日後、夏祭りの日がやって来たのです。

夏祭りが開催されるのは、町の中心にある神社。この日のために、祖母は父が子供の頃に着ていた浴衣を手直ししてくれました。初めて着る浴衣…僕の気分はいつになく高揚していました。
日が沈むと、祖父と手を繋いで神社へと向かいました。町の祭りなだけあって、たくさんの人が集まっています。社へ向かう参道には商店街の人たちが出した屋台が建ち並び、たこ焼きやお好み焼きの良い匂いを漂わせています。

「いいかい?おじいちゃんから離れちゃいけないよ?勝手に走り回っちゃいけないからね?」

人混みに入る前に、祖父は僕に言い聞かせました。
しかし雑踏に入ると、なんとも歩きづらい。あまり大きくない僕は、大人たちの群れに紛れて、いつの間にか祖父とはぐれていました。
おじいちゃん!どこ?と叫んでも、返事はありません。
あぁ、どうしよう!そう思っていた、その時。誰かが僕の手をぎゅっと掴んだのです。
ひやりとした、冷たい手でした。
誰だろうと振り向くと、おかっぱ頭の僕と同い年くらいの女の子が立っていました。

「迷子なの?ここは危ないよ、こっちに来て」

囁くように女の子は言って、僕の手をぐいぐいと引いて行きました。細く小さい、とても冷たい手…。
人混みから離れた場所に移動し、僕は彼女にお礼を言いました。
女の子は白い顔に笑顔を浮かべています。今時見ないような、赤い地味な浴衣が妙に似合っている子でした。

「あたし、ミカ。あなたお名前は?」

自己紹介すると、ミカちゃんはどこか嬉しそうな表情を浮かべ、

「あたしも迷子なの。あなたも迷子でしょ?せっかくだから、迷子同士でお祭り見て回ろうよ」

でも、おじいちゃんが心配してるから…。そう思いつつも、この地で初めて友達ができた嬉しさが勝り、僕はミカちゃんと一緒に子供同士で祭りを楽しもうと決めました。
両親に持たされたお小遣いで射的や金魚すくいをし、かき氷を食べました。
笑い声を夏の夜空に響かせて、彼女の冷たい手を握りしめ、雑踏の中を駆け回っていると、あっという間に時間は過ぎていきました。
いつの間にか、祭りの終わりを告げる花火が上がる時間が近づいていました。
僕は社の近くにある石灯籠に腰掛けて、ミカちゃんに花火を見に行こうと誘いました。
ですが彼女は少しだけ悲しそうな顔をして、白い顔を僕に向けて言いました。

「花火を見たら、帰っちゃうの?」
「うん。おじいちゃんが心配してるからね。明後日には東京に帰るんだ」
「そっか、帰っちゃうんだ。またあたし、一人になっちゃう」
「お父さんやお母さんが迎えに来てくれるよ」
「来ないよ。だから、あたしは一人なの」

ぞくりとするような、寂しげな表情でミカちゃんは僕を見つめ、ぎゅっと手を握りました。

「ねえ、あたしと一緒に来てくれる?あたし、まだあなたと遊んでたい」

ひんやりとした手が、強く強く僕の手を握りました。痛いほどに…。
なんだろう……この子、なんだか怖い…。そう思った、その時。雑踏の中から僕の名前を呼ぶ祖父の声が聞こえてきました。反射的にそちらへと顔を向けると、雑踏を掻き分けてこちらに向かってくる祖父の姿が見えました。
おじいちゃん!こっちだよ!大きく手を振って、最後にミカちゃんにお別れを言おうと振り返ると、そこには誰もいませんでした。
生々しい冷たい手の感触を残して、ミカちゃんはどこかへ行ってしまったのです。

勝手にはぐれた僕は、当然ながら祖父と父にこっぴどく叱られました。
一人であるなんて危ないだろう!と言われ、一人じゃなかった。ミカちゃんと一緒にいたんだと反論すると、祖父も父も不思議そうな顔をしていました。
どんな子だったかと聞かれ、ミカちゃんの特徴を話すと、祖父は顔を蒼くして言葉を失いました。

「おじいちゃん、ミカちゃん知ってるの?」
「その子はきっと…おじいちゃんが子供の頃に神社でいなくなった子だ」

瞬間、場の空気が凍りつきました。
祖父が子供の頃、神社のお祭り中に行方不明になった女の子がいました。町総出で探しましたが、結局今も見つかっていない…
誘拐なのか、事故に巻き込まれたか…それすらも不明なのだそうです。
そして、父がぽつりと言いました。

「そういや、俺が中学の時も祭りの時に行方不明になった子がいたな。最後の目撃情報で、女の子と一緒だったとか言われてたけど…」

あれから10年ほど経ち、僕はあの田舎の夏祭りに一度だけ行ったことがあります。
一人で雑踏の中を歩いていた時、小さな男の子の手を引いて歩いている赤い浴衣の女の子がいました。

ミカちゃんは、まだ祭りの夜を彷徨っているのでしょう……

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