もう10年以上前に体験したことですが、今でもアレはどうなったのかと気になって仕方ありません。
その当時私はとある事情があって大学卒業後に入社した会社を辞め、別業種の会社に勤務していました。
その会社はわりと規模の大きい会社で自社ビルがあったのですが、このビルの入り口にある階段で奇妙なことが起きたんです。
入社してしばらくは自分自身に被害がなかったので知らなかったのですが、同じ部署のAさんから階段でよくケガをする人がいるという話を聞いたのが始まりだったと思います。
自社ビル内にある階段、確かに作りが古いせいもあってか足の大きさを考えるとちょっと幅が狭いかなとは思ったのですが、それほど急な作りでもなく、材質が大理石だったことから滑りやすいのかもねと。
確かに雨の日なんかは履いている靴の種類などによっては、ちょっとしたことで水で滑って転びそうになることがありました。
また営業さんなんかはダンボール箱に入った資料や商品を持ったまま階段の上り下りすることで視界が遮られるから、階段を踏み外すのでは?という意見を言う人もいましたが、皆気を付けようねという話でいつも終わっていたんです。
しかし私が階段であるものを見てしまってから、実は他の人もそれを見ていたということ、そしてそれがケガ人を出しているということを知ってしまったんです。
あれは9月後半、台風が近づいていて天気が大荒れになっている日の夕方でした。
雨はそれほどでもなかったのですが、風が強く周囲のお店や会社がみな15時くらいで社員を帰宅させているような状態で、私の勤めている会社もこの日ばかりは16時に帰宅命令がでたんです。
電車が止まるかもしれないと、帰宅準備を急いでビル入口にある階段を駆け下りようとしたんですが、ありえないものを目にして階段前で固まってしまいました。
階段の中腹あたりに、「肘から上の人間の手」が生えていたんです!
一瞬何か見間違えたのかと思ってよく目を凝らしてみたのですが、どう見て人間の片腕で、ほっそりしていて女性のもののようでした。
霊感もなく今まで霊なんて見たこともないし、このビル自体にそういった心霊関係のうわさもなかったのですが…。
どうしようとその場で困り果てていると、ちょうど外から営業さんが帰ってきてその手のいる階段を登ってきたのですが、営業さんが近づいた途端、その手は物凄い勢いで営業さんの足を掴んだんです。
営業さんは掴まれたせいなのか前のめりになって転びそうになったものの、何とか転ばずに上まで登ってきました。
「大丈夫ですか?」
顔見知りの営業さんだったので声をかけたのですが、「階段で何かに足を引っ張られたような気がした」と言っていたものの、本人は手が見えていなかったようであまり気にしていませんでした。
この階段を降りないと外に出ることができないので、仕方なくなるべく手を見ないように階段を降りたのですが…。
近づいた瞬間に左足首を掴まれ、危うく転び落ちそうになり手すりにつかまって何とか転倒せずに階段を降りることができましたが、掴まれた部分の痛みがひどく帰宅後に足首を見てみたら真っ赤な手形がついて捻挫したときのように少し腫れていました。
こんなことがあったからなのか、その日の夜は夢でうなされていたのですが内容は覚えていません。
ただ目が覚めたときに何ともいえない気持ちの悪さが残っていたのは覚えています。
深夜に台風が去ったので翌日は普通に出社したのですが、ビル入口の階段にあの手はいませんでした。
足首の痛みはひかず足を引きずっているのを見たAさんに、どうしたのか聞かれて正直に話すか迷ったのですが、思い切って手のことを話したんです。
「…あれ、見ちゃったんだ。実は私も何回か見ているんだよね…」
と意外な返事が返ってきました。
しかも過去に起きた階段での事故、勤務の長い人の間ではあの手が原因じゃないかといううわさまであったそうです。
一時期あまりにも階段での事故が多いのでお祓いも考えたそうなのですが、社長が頭の固い人で却下されてそのままなんだとか。
中途入社や新入社員で霊感の強い人が入ってくると、あの手が原因で辞めてしまう人もいるという話もこのとき聞かされました。
手の正体についてはいろいろと社内でうわさがあったようですが、私が聞いた中で一番信可能性が高いなと思ったのは、過去に社長の愛人だったBさんという経理の女性があの階段で社長と言い合いになったときにはずみで階段から落ち、頭を打って亡くなってしまったというもの。
このとき昼間だったのもあって、現場を目撃した社員が数人いたそうです。
「もしかしたら自分を殺した社長を捕まえようとしているのでは?」
そんな考えがよぎったのですが、社長も普通にあの階段を利用していてケガをしたという話は聞かないので、結局正体は何なのかわからないままでした。
今でもビル自体は残っているのですが、会社が不況で倒産してしまったため、その後あの手がどうなったのかなどに関しては分かりません。
一体あの手は何を求めていたのでしょうか。
コメントを残す