サイコロを使っての占いが、僕の中学校では、流行っていた。
普通、占いというと、タロット・カードや星占いのホロスコープ、生年月日の四柱推命辺りをイメージするだろうが、僕の学校で流行っているのはサイコロだった。
まず、サイコロ占いのやり方は、紙に魔法陣を描く。
魔法陣はダビデの星とも呼ばれる形の、六芒星でなければならない。上へ向かう三角形と下へ向かう三角形を足した、あの図形だ。
六芒星を紙に描くと、六つの三角形と一つの六角形が生まれる。
三角形全てには、一から六までの数字を記す。
そして、六角形の方には、Open(開く)という英語のスペルと、Close(閉める)という二つのスペルを書かなければならない。
やり方は、こっくりさんに似ているかもしれないが、こっくりさんが、十円玉を使うのに対して、このサイコロ占いは、六面体のサイコロを使う。
この占いのやり方としては、まずサイコロをOpenの場所に置く。
そして、サイコロを魔法陣へと投げる。
1 イエス
2 ノー
3 質問の仕方が違う
4 イエスに近いが完全に的中はしていない。
5 ノーに近いが完全に間違ってはいない。
6 もう一度、サイコロを投げなければならない。
サイコロが魔法陣に落下する際に、サイコロに出ている数字が、三角形に描かれている数字と近ければ近い程、この占いの的中率は高く、遠ければ遠い程、的中率は低いと言われていた。
そして、終わる時は、サイコロを一度、Closeと書かれている場所に置かなければならない。
というものだった。
至ってシンプルなやり方で、うちのクラスでも、女子を中心に流行っていた。
おそらく、流行の要因は、こっくりさんよりも、簡単に始められるからではないだろうか。六面体のサイコロなんて、百円ショップやコンビニにでも行けば売っているし、白紙とペンがあれば始められる。そして、五十音を書かないといけなく、最低三名いないと出来ないとされている、こっくりさんなどよりも占いを始めやすいから、というのが流行りの原因だろう。
ただ、占う際に、決して、サイコロで数字の6を三回連続で出してはいけないと言われていた。666は悪魔の数字だからだ。なので、連続で6を三回出してしまうと、悪魔を呼び出してしまうとの事だった。
この学校で、どれだけ、その占いが行われていたのか分からない。ただ、昼休みには、やっている者を多く見かけた。質問の内容は、誰が誰を好きなのか、だとか。明日は晴れか雨か、だとか、そんな他愛も無いものばかりだった。
三つとも、ある特定のゾロ目が出る確率なんて、せいぜい、216分の一だ。
なので、六が続けて、三回出る事なんて、占いが流行っていれば、しばしばあった筈だ。けれども、特に、何か異変が起きた、という者はいなかった。
こっくりさんの代わりに、なんで、こんな占いが学校内で流行っているのかは分からない。休み時間に遊べる事なんて、いくらでもある筈だ。けれども、この学校は校則が少々、キツかったし、携帯ゲーム機が見つかれば没収で、スマートフォンさえ持ち込めなかった。だから、こんな他愛も無い遊びが流行ったのかもしれない。
ある日の事だった。
クラスの中心人物として、少し不良のような髪型をしているカズマサが、仰々しい道具を持ってきた。それは、ネット・オークションで買ったという、禍々しい魔法陣の描かれた、黒い紙だった。六芒星の魔法陣は黒い紙の上に、白く描かれている。
「おい、これでサイコロ占いやってみようぜ」
そう言うと、彼は何名かの仲間を集めていた。
「おい、ユズルも俺達と一緒にやれよっ!」
そう、カズマサは、僕の名前を呼ぶ。
取り巻き達も、はやし立てていた。
僕は、仕方なく、占いに参加する事になった。
「なんか、これ気持ち悪いんだよ。ネット・オークション検索していたらさ。だから、これで、サイコロ占いやってみたら、面白いかって思ってさ」
そう言うと、カズマサは真っ赤な血のような赤いサイコロを三つ取り出した。
「あ、じゃあ、2組のナナミいるだろ? 胸でかくて可愛い子。その子は将来、彼氏が出来ますか?」
他の連中がはやし立てる。
カズマサの取り巻きには、女子も何名かいた。
「わたし、今度、ナナミに聞いてこようか?」
女子の一人は言う。
「いいから。サイコロ振ろうぜ」
そう言うと、カズマサはサイコロを投げる。
数字は、4で、魔法陣で4と書かれている場所に近い処に落ちた。
「あー、出来るかもなっ! どうしようっかな、いっそ、俺が告白しようかな?」
「サイコロ投げてみれば?」」
女子の一人が言う。
「俺がナナミに告白したら、OK出ますか?」
カズマサは投げる。
1だ。イエス。
場所は、4と描かれた図形の場所に近い。
「おい、告白したら、OK出やすいんだってよ」
「でも、1に近い場所に落ちていないから、100%では無いよね」
そう言いながら、みんなで笑いあっていた。
「あー、そうだ。ユズル君、いつ死ぬか聞くね? ユズル君の死期は近いですか?」
そう言いながら、カズマサはげらげらと笑っていた。
「なに、それ、イジメだよ」
「そうだよ、酷い」
「カズマサァ、やめろって」
口々に、カズマサはみなから責められていく。
クラスのガキ大将は、そう言うと、じゃあ、俺の死期近いか、でも占うわ、と言った。僕は、正直、彼が少し怖かったので、みなのフォローが嬉しかった。
「じゃあ、俺の死期は近いですか?」
カズマサはサイコロを投げる。
ころころ、と、サイコロは転がる。
数字は、6。
そして、図形の6に近い場所に落ちた。
「なんだ? もう一度、投げなければならないのか?」
彼はそう言うと、サイコロを投げる。
ころころ、と、サイコロは6を出して、図形の6に近い場所に落ちた。
「また?」
カズマサは不貞腐れたように言う。
「ろくでもない質問するからだよ」
取り巻きの男子の一人が言った。
「そうだよ、きっと、次も6出るよ、悪魔の数字」
女子がけらけらと笑った。
カズマサはサイコロを振るう。
ころころ。
6が出た。
また、図形の6に近い。
「なんだよ、悪魔の数字出したよ。本当に気持ち悪いなあ」
そう言うと、カズマサは、椅子に、どかっ、と勢いよく座った。
「俺、なんか気分悪いから、お前らで続きやれよ」
「カズー、6が出たら、やり直さないといけないぜ」
「悪魔来るよ、悪魔―」
「あー、でも、昨日、4組の奴が6を三回続けて出していたぜ。さすがに、図形も6に近い場所じゃないけどさあ。ってか、カズー、お前、手品か何かで、わざと図形が6に落ちるようにしてるんじゃねぇの? ユズル、指名していたじゃん。その方法で、その手品使おうとしたんじゃないの?」
「ほら、イジメっ子は怖いねー。ほら、ユズルー。君、降りなよー。カズの死期は近いか、どうか」
そう言われて、僕はサイコロを渡される。
僕はサイコロを魔法陣に向けて、降った。
イエスを意味する、1が出た。
…………、場所も、図形の1の中に見事に入った。
みな、それを見て、どっと笑い出した。
「俺、気分が悪いわ。やめ、やめ」
そう言うと、言いだしっぺのカズマサは、一人、外へと出ていく。
「何処、行くんだよ? カズー」
「便所」
カズマサはそう言うと、がに股で歩いて出ていく。
そして、何事も無い筈だった。
その夜、カズマサは死んだ。
夜遅くに、カズマサが死んだ事が電話で掛かってきた。
なんでも、家の中で、全身、何者かに喰われたように肉辺のようになって転がっていたらしい。その際に、何か変な獣のような臭いがしたのだという。
おそらく、悪魔を呼び出したのだろう。みな言う。
当然、このサイコロ占いは、学校中で禁止になった。
僕は、未だに、占いが原因なのか、それとも、カズマサがネット・オークションで購入したという、魔法陣が描かれた紙が原因なのか分からずにいる。
僕は、あの日、勝手に帰っていったカズマサのものを預かる、という形で、あの禍々しい紙の魔法陣の紙を今でも持っている。
時折、部屋の中で、奇妙な物音がして、何か大きな獣の臭いと、犬か狼の遠吠えのような鳴き声が聞こえるが、聞かなかったようにしている。
サイコロ占いを読んだ感想
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