【怖い話】いわく付き物件

実話の怖い話



いわく付き物件

私の唯一の霊体験は、友人(A子)の家でだけだった。

A子は当時悪質なストーカーに悩まされていて、ついに命の危機を感じるレベルまで追い込まれて引越しを決意した。
不動産屋に飛び込んでこれこれこうでと事情を話し、今日明日にでも引っ越せる部屋はないかと聞いたところ
「一つあります」と出された物件の情報はあり得ないものだった。
築年数こそ普通だけど都心繁華街に近い2LDK、敷礼なし、即日可、それで6万行かないくらい。
「怪しさ満点だろ…」と付き添いの私でさえ顔に出てたと思う。

不動産屋もそれを察してなのか「正直に言います」と

・刃傷沙汰はあったけれどこの部屋で死人が出たことはない
・家に帰ると部屋が荒らされていて一度は警察を呼ぶことになる
・女がいると言って入居者は半年持たずに出て行く
・お祓いやらなにやら試し済みだけど効果はない

やべーよやべーよと思ったけどA子は「それは放火未遂を起こしたりしましたか?」とだけ聞き、さすがにそれはないと聞くと即契約してしまった。

「放火する人間より散らかす幽霊がいい」は名言として今も私の中で語り継がれている。
さすがに即入居とはならなかったけど、ほぼ夜逃げ状態でA子は訳あり物件へ引っ越した。

警察やらを介入させてストーカー問題を片付けるのに二ヶ月くらい掛かったと思う。
友人達でA子の無事を祝い集まった時に、「そういえば家大丈夫なの?」と聞いてみた。
引越してから一度もA子の口から幽霊という単語は出ていなかったから、不動産屋が大袈裟に言っただけで当たり物件を引いたのかと。
しかしA子はさらりと「いるよ、女の子。クローゼットの中にいる」と返した。
A子の家は玄関入ってすぐに一部屋、奥にリビングともう一部屋という間取りで
不動産屋が言うには玄関横の一部屋当たりがハザードポイントだと言っていた。
そしてまさにそこに出るらしい。

・家に帰ると靴が収納から全部出されてぐっちゃぐちゃ
・また別の日はリネン系をまとめてぐっちゃぐちゃ
・ハザードルームの前にあるトイレから出ると、人影がその部屋に入って行くのと遭遇→その後部屋の中のクローゼットが閉まる音がする
・お風呂に入っているとドアの前、擦り戸越しに人影が立つ

これらのどれかが1日1回は必ず起こるらしい。
A子は着道楽だった。
物持ちもいいしセンスもいいから、衣服を捨てるということは滅多にない。
約10年経った今でも当時の服を着回してるのにすごいオシャレ。
そんなA子、そのハザードルームを衣裳部屋としてフル活用していたらしい。
そしてそこに住んでいる幽霊、A子の衣服でコーディネートして遊んでいた。
服は上から下まで、たまに靴とバッグを添えて床に置いてあるらしい。

幽霊コーデはクソダサい

15点とかその日の採点を呟いてからA子出掛ける

帰ると
・衣裳部屋保管の靴が左右入れ替えられたりする
・バッグの中に下着が詰め込まれたりする
・上下のセットアップがバラバラに保管される
ということが起きている

「評価低くて腹立つならセンス磨け!」と説教しながらA子お片付け

翌朝新コーデ発見

やはりクソダサい
幽霊見たい!となった私と友人のB美で、その日はA子の家に止まらせてもらうことにした。
お酒とか買い込んで、夜逃げ手伝いした時以来のA子の家に行った。
やっぱりすごく立地の良い場所にあって、大学入りたての小娘が住めるようなマンションじゃなかった。
部屋に入っても空気が重いとか嫌な感じがするとかは一切なくて、
それどころか綺麗好きのA子らしくモデルルームみたいだった。
あの部屋を見てから実はおばけでるとか聞いても、誰も信じないと思う。

朝風呂派のB美を抜いてまずシャワーを浴びようって話になった。
寝巻きも貸すよーハザードルーム取りに行くよーというA子の後に付いて、いざハザードルーム。
ドアを開けて中を見た瞬間、恥ずかしながら腰が抜けて座り込んだ。
薄暗い部屋の中で人間の形をしたものが、ぶら下がって揺れていた。
A子の言う通り、今思い返しても何も思い出せない。
腰が抜けたままじっとその首吊り光景を見てたのに、
どんな服装してたとか顔付きや体型も、肌が肌色だったかも思い出せない。

ただ人間の形をしているものが、首を吊って揺れていたのだけ覚えてる。
B美はうひぃぃみたいな息の抜けた声を出していて、
A子は「あらー新技ー」とか言ってた。
B美がすぐさまドアを閉めたのに、
A子は「二人ともTシャツとショーパンとかでいいよね?」とかいいながら中に入っていって二人分の着替えを持って出てきた。

「まだいた?ぶら下がってる?」
「もういなかったよー」
のほほんとしてるA子の肝っ玉半端ねぇ。

「あんなホラー映画みたいなの初めて!お客さん来てテンション上がってんのかな!」
なんていうお前のテンションもおかしいよ?
この空気の中お風呂とか借りれないんですけど?

「ドア越しに立ってたりするけどそれだけだよ。そういう模様の扉だと思えばなんてことないよ」
って言われても怖いもんは怖いし、取り敢えず先にA子にお風呂入ってもらった。
残されたB美と二人、ドアを頑なに見ないよう背中を向けて寄り添いながら聞いてたKISSは今でもよく覚えてる。
お陰で今もテンション上げたい時は自然とKISSを聞くようになった。
A子さんと友達になって修行したいわwww
俺ほんの少し感じることあるんだけど毎度怖すぎて死にそうになる
「なんともないよー」と至って普通にあがってきたA子に後押され、次は私がお風呂に。超腰引けてた。
さっと洗ってさっと出ようと思い、急いで服脱いで扉開けて、そこでまた腰が抜けた。
あの一晩で私の腰ボロボロになったと思う。
シャワーヘッドの上、天井と壁の境目辺りに手形があった。

黒ずんだ手形で、血?っていうかなんともなくねーよ畜生!なんて思ってたけど、もうその時は涙目だった。怖くて怖くて。
もしかしてA子が演出でやったとかも一瞬頭によぎったけど、綺麗好きで「家の汚れは心の汚れ!」がモットーのA子が水回りを汚すわけない。
幽霊の洗礼だ。
バスタオルだけ巻いてリビングに戻った。
飛び込んで来た私を見て「扉の模様だよ?」と言われたけど、壁だし!手形模様なんてごめんだよ!と喚きながらA子をお風呂に連れてった。
B美は私のバスタオルを引っ張りながら着いてくるもんだから全裸御開帳になりそうでそれもまたハラハラさせられた。

「A子の悪戯じゃないよね?」とじっと浴室を見るA子の顔を覗き込んだら、おっとり美人のA子の顔が般若になっていた。
普段にこにこしてるばかりの人が怒ると本当に怖い。
首吊りよりも手形よりも、この時のA子が一番怖かった。
幽霊なんかを怖がってた自分をぶん殴りたい。
私はA子が怒った時の方が怖いことを知った。
そのまま無言でA子はハザードルームに行った。
B美と二人くっついてたら殴ったような音が聞こえて(後にA子がクローゼットの扉を蹴った音だったと判明)、
「おいコラ、クソデブ!人の家になにしてくれてんだ!家賃も払ってない居候の分際で調子に乗るんじゃない!」という怒鳴り声。
「悪戯と嫌がらせは違う」
「住まわせて頂いているという謙虚な心を持ちなさい」
「お客様は驚かすものじゃなくてもてなすもの」
一通り説教した後に
「帰るまでに綺麗にしときなさいよ!綺麗にしなかったらお前の部屋は今日から洗濯機の中。毎日ぐるんぐるん回してやるわ!」と言い捨てて、A子は戻ってきた。
「ごめん、ちょっと外に飲み直しに行こう」って申し訳なさそうな顔で言うA子に、もはや逆らえない。
B美はずっと「ぐるんぐるん」って呟いてた。ツボに入ったらしい。
近所のバーに場所を移して一息ついたら、色んな恐怖も薄れた。
そんなことよりもA子の般若へのメタモルフォーゼの方が問題だった。
今まで幽霊の仕業に怒り一つ見せず、それどころかにこにこ話していたのに、何故あんなにも怒ったのか。
A子曰くまず怒り狂ったのは
・乾いた血だったらもっと黒寄りだし、赤くも無かった
だからあれは血じゃなくて多分乾いた泥
血と違って泥は洗い流すと排水口に溜まる
昨日ぴかぴかにしたばかりなのに汚された事が許せ

クソデブ発言
・手形の跡がデブの手だった
自分より小さそうな手形なのに、指と指の間がほとんど空いてなかったからデブだと思った

お前冷静だな。
うちらそんなじっくり考えながら見てなかったわ。

果たして幽霊に掃除なんて出来るのか。
いや汚すことが出来るんだから綺麗にすることも出来るはず。
怪談話で汚された壊されたって話はよく聞くけど、その後の対処は語られない。
やっぱり手形付いたままなんじゃない?
なんて談義を繰り広げ、掃除し直しかーと項垂れるA子を連れて部屋に戻った。

2時間くらい店にいたと思う。
山手線の始発までもう少しって時間で、夏だったから結構明るくて、
そのお陰で部屋に戻るのも怖くなかった。

一番にお風呂に行くと、手形の痕跡なんて全くなくどこもかしこも綺麗だった。
その前にA子がお風呂に入ったはずなのに、その時の水気もなくて、浴室中を布で拭き取ったみたいだなって思ったのを、よく覚えてる。

A子は「やれば出来るじゃーん」と超ご機嫌で、ハザードルームに入って行った。
「悪戯はいいけど嫌がらせはダメ。お互い思いやりを持って暮らそうね」って幽霊に言うことじゃない。

しかしA子のキレた時の発言といい、綺麗に磨かれた浴室の具合といい、なんかシンデレラみたいだねという話になって
あの日から幽霊の名前はシンデレラになった。

起きた時は昼過ぎだった。
昨日入れなかったお風呂を借りようとしたら、A子が着て帰ってもいい服を貸すよと言って一式持ってきた。

赤いTシャツにサックスブルーのミニスカート。あと焦げ茶のニーハイソックス。
デニムジャケットに花柄キャミ、デニムのショーパン。魅惑のデニムonデニム。
繰り返すがA子はお洒落さんだ。
こんな組み合わせをするような子じゃない。
ニーハイに至っては春先にA子が履いていたもので、季節感ガン無視コーデだった。
これを着て帰れと?という顔をしてたんだと思う。

「こちら本日のシンデレラコーデとなります」
「罰ゲームじゃん」
「二着分置いてあるのは初めてだから、きっと二人の為に用意したんだよ」

笑えるダサさじゃなくて、ふっと目を逸らしてしまうようなダサさと言えば伝わるだろうか。
ありがた迷惑だった。

これが私の始めての霊体験。
その後も何度か泊まらせてもらったけど、一度だけお風呂の扉越しに人影を見たのと、トイレに入ってたらやけにリズミカルなノックをされただけで終わった。
シンデレラコーデは泊まる度に用意されたけど、一向にセンスが改善された兆しは感じなかった。

たまに思い出したように「最近シンデレラどうしてる?」と聞くと、
「ビートルズやストーンズをかけると部屋のドアが少しだけ空くようになったからそういう音楽が好きみたい」
「メタルとか好きじゃないCDの中身を入れ替えられてる」
「ふわっふわの上等なタオルが見当たらないから探してみたらクローゼットの中で見つけた」
A子の口からはほんわかエピソードしか聞くことはなかった。

A子曰く、引越し当初は実態あるストーカーの方が怖くって、外に出るのも嫌で、だからといって部屋に一人も心細くてどうしようもない状態だった。
完全にメンタルやられていた時に、自己主張激しくシンデレラが登場するとほっとしたらしい。
そういえば驚いた記憶がなく、現れると話しかけてたというので相当追い詰められていたんだろう。

去年賃貸情報のサイトであの部屋が掲載されてるの見つけたけど、賃料も全部適正料金になってた。
あの部屋にもうシンデレラはいない

A子が何をしても驚かず、前の住人達みたく出て行きもしなかった。
そんな時に泊まりに来た私達がいい反応を返したからテンション上がって浴室の犯行に至ったのかもね。
あれのお陰でちゃんと躾が出来たから良かったよーとA子が話した時には、
あぁこの子にとってシンデレラはちょっと馬鹿な犬ぐらいの扱いなんだなと思った。

A子は大学を卒業してもその部屋に住んでいた。
話に「シンデレラ」という単語が出てくることもなくなって、私もすっかりそんな事を忘れかけていた。

そんな中で久し振りに一緒に食事に行った時、A子の口から「引越しする」という話が出た。
彼氏と同棲するので少し荷物は減らさなきゃいけない、処分する衣服の中で欲しいものがあれば持って行ってという嬉しい誘いをいただいたので
何年か振りにA子の家へ泊りに行った。
その時私はシンデレラの事なんて綺麗さっぱり忘れていて、「やっぱり立地良いからちょっと勿体無いね」なんて呑気に話しながら思い出のハザードルームに入った。
そしたら、居た。
部屋の奥にある桐箪笥の前で、人がこちらに背中を向けて正座をしていた。
相変わらずそれは「人が正座をしている」だけで、体型も色も思い出せない。
でも確かに居た。シンデレラだった。
A子が明かりを付けるとやっぱり誰もいなくて、荷造りの箱からめちゃくちゃに飛び出している服が広がってるだけだった。
「シンデレラまだいるの?」
「うん、元気だよ」
そうじゃねぇよ。
昔ほどの驚きはなかった。
腰を抜かすほどあの頃は驚いて怖かった筈なのに、「あぁシンデレラだ」とストンと納得しただけだった。
貰う服を選びながら、妙に散らかった部屋が気になった。
らしくないねと言うと、「荷造りしても仕事から帰ってくると全部開けられてる」とA子は言った。
お陰で全然進まないと愚痴るA子とは違い、私は取り憑かれてるんじゃとオカルト思考が頭をよぎってしまった。
「シンデレラがやるの?」
「私が出てくの淋しいのかな」
「やばくない?」
「うん、このままじゃ引越し間に合わない。やばい」
そっちじゃない。
「陰干しとかすると着物の前で座って見てるから、着物好きみたい。着物にだけは悪戯しないし」
「さっきも箪笥の前にいたね」
「一着ならあげてもいいんだけど、クローゼットの中に着物あったら借り手見つからないよね」
「A子みたいな人がまた住むよ」
「そしたらシンデレラも淋しくないねぇ」
当たり前だけどシンデレラの返事はない。
でも聞いてるんだろうなと思った。
霊感なんて欠片もない。
怪談は娯楽だと思うし、少し霊感があって~とか言われると内心鼻で笑ってしまう。
それでもなぜかシンデレラだけはリアルだった。それは今もそう。

貰う服をまとめて、シャワーを借りて眠りについた。
相変わらずA子の家はどこもかしこも綺麗で、シンデレラの悪戯は一度もなかった。
A子の躾は確かだった。
シンデレラコーデだけは健在で、寝起きと同時に渡された一式は眠気を吹き飛ばす破壊力だった。
パステルピンクのスカートに紺のジャケット、黒いショートブーツだった。
この時、6月である。
服のセンスは尖れば尖るほどダサくなるもんな
実はシンデレラが一番尖ってた
帰って一番にやったことは、賃貸情報の検索だった。
最寄り駅から徒歩何分圏内~の条件で探して、賃貸情報が載ってないかひたすら探した。
A子の物件情報は2・3分で見つかった。
家賃や初期費用も相場通りになっていて、当たり前だけど事故物件を匂わすような表記はなかった。
A子が6年以上住めたのだからもう何もないと不動産屋も判断したのかもしれない。
シンデレラはまだ確実にいるのだけれども。
何故こんなことを今更書き綴っているのかというと、つい先日数年振りにA子とシンデレラの話をしたからだ。

泊めてもらった翌月に、A子からは引っ越したよと連絡が来ただけだった。
シンデレラがどうなったか、聞くのが少しだけ怖くて他愛無いやりとりを交わすしか出来なかった。
今度公開するディズニーの実写映画の話をした流れだった。

「A子の家にいたシンデレラはぽっちゃりだったけど、映画のシンデレラは綺麗だね」
「ぽっちゃりだから着物が好きだったのかもね。洋服だと私の服入らないから」
「箪笥の前いたもんね。あれはびっくりした」
「今は箪笥の中にいるよ」
いるんかい。
まだ姿を見せるのか。
いやそれより着いて来たってそれやばくないか。
なんで着いて来たって分かるんだ。
A子お前大丈夫か。
矢継ぎ早に質問する私の前で、相変わらずA子はにこにこしてた。

あの後も荷物を纏めては散らかされの繰り返しで、本当に間に合わなくなりそうだった。
だから持っている着物の中でデザインや色が若過ぎてもう着れそうのないものを一枚クローゼットに置いてみた。
「この着物で良かったらあげる。これからは私一人じゃなくなるし子供も生むと思う。シンデレラに現れられると私は少し困る。今まで通りお互い思いやりのある距離が保てるなら、一緒に行こう」
そう言った次の日から荷物は荒らされなくなったから、大急ぎで荷造りを終えた。
それでなんで着いてきたと分かるのか聞いてみれば、
箪笥を一段開けてそこにシンデレラの着物を収納していたら
たまにその段だけ空いていたりするらしい。
滅多にないことだし特に気にならないけど、少し空いてるとかじゃなく引き出し全開だからシンデレラらしいなって思う。
私が死んだら一緒に燃やしてもらおうかなって思ってるの。

そう言い切ったA子には一生敵わないなと思った。

これでA子の人生に何かしら影があるなら取り憑かれたのかと考えた。
でもA子の生活は絵に書いたような幸せそのものだと思う。
この御時世では珍しいくらいの順風満帆。
夫婦仲は良いし、子供は可愛い。
買ったばかりの戸建てでも霊現象は一切起きてないらしい。
衣装部屋としてA子が使ってるウォークインクローゼットの中以外は。

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