大学進学を機に一人暮らしを始めた。
親は寮に入れってうるさかったけど、寮は入る条件も厳しければ、入った後の規則も厳しくて、俺は断固としてアパートでの一人暮らしを譲らなかった。
最終的に親は一人暮らしを認めてくれたけど、アパートは親が探してきたところだった。
そこそこ綺麗な、単身者用の部屋…。大学生に1LDKの部屋はかなり贅沢に思えたが、同じアパートに大家さんが住んでいるというところを気に入った親は、ここに即決したそうだ。
まあ、立地はいいし、部屋も悪くない。他の住民は社会人が多かったから昼間はいないし、住むには良い環境だ。
ここなら楽しい大学生活をスタートできる。
そう思っていた……
一人暮らしをしたことのある人なら分かってくれると思うけど、初めての一人暮らしってのは何かと大変だ。
まず、家事が出来ない。掃除と洗濯はまだなんとかなる。問題は料理だ。
母親の手伝いをしてこなかったことを、ここまで後悔したことはない。せめてカレーくらいはまともに作れないとやっていけないと思った。
1ヶ月ほど悪戦苦闘しながら自炊生活を送り、やっと食べられるレベルの夕飯を作れるようになったものの、俺に嬉しさは無かった。
世の中はゴールデンウィークを迎えていた。
去年の今頃は、母親の作った飯を食いながら連休の特別番組や映画を観て、家族で楽しく過ごしてたっけ…。
今の俺はというと、なんとか食える程度の味付けの飯を一人このアパートで食べている。
「なんだか、寂しいな……」
あれだけ熱望した一人暮らしが、途端に寂しくなり、孤独感を煽った。
それから1週間くらい経った頃、おかしな事が起きた。
大学からの帰り道に買い物をしてアパートに帰ると、部屋の中に違和感を覚えた。
別に何かが移動していたとか、荒らされていたとか、変な臭いがしたわけじゃない。
気配だ。
ぞわ…っと肌をくすぐるような、そんな気味悪さを覚えた。
誰か、いる…。無人とは思えない空気を感じた。
もしかして空き巣だろうか?物音を立てないように部屋の中に入り、押入れや風呂場、ベッドの下まで見て回った。
しかし、誰もいない。
気のせいだったのか…。もしかして、俺はホームシックになっているのかもしれない。一人の寂しさのあまり、誰かが家の中にいるような錯覚を覚えたのだろう。
そう自分に言い聞かせた。
ところが、その感じは日を追うごとに増していった。
最初は帰宅した時に一瞬感じる程度だった。
それが次第に、日常生活の中でも感じるようになっていったのだ。
風呂に入っている時…
料理を作っている時…
バラエティ番組を見ている時…
この部屋に何かがいる…それだけじゃない。
誰かが、じっ…と俺を見つめている。
部屋の中から、張り付くようなじっとりとした視線を感じるようになった。
でも、当然ながら部屋の中には俺しかいない。窓の外を見ても誰もいない。
怖くなって、一度だけ部屋中を引っくり返して大掃除をしたことがある。
もしかしたら、カメラや盗聴器があるのでは…?そんなことを心のどこかで期待していたが、それらしいものは何も出てこなかった。
やはり気のせい…?それにしては、この絡み付くような視線と気配は薄気味悪い。
俺はこの部屋にいる時間を減らすために、アルバイトを始めた。学校帰りと土日にシフトを入れて、出来る限り部屋にいる時間を少なくしたかった。
若いと言っても2週間も連勤したら疲れが出てくる。
バイト先の店長の厚意に甘えて、土曜日に丸々1日休みをもらった。
久々の休みだけど、外出する気になれなかった俺は録画しっぱなしになっていた海外ドラマを観ることにした。
コンビニ弁当を買ってきて、コーラを飲みながらテレビ画面に集中する。
画面の中ではFBIの敏腕プロファイラーが連続殺人犯の取り調べを行っていた。
このドラマはシーズンを追うごとに面白くなる。そうワクワクしていたのも束の間…あの不気味な気配を感じた。
ぞくっ…と身体中に冷たいものを感じ、部屋を見渡す。
誰もいない…。しかし、いつもよりも近くに気配を感じる…どこだろう。台所?押し入れ?窓…?いや、違う。
今、ここに…俺のすぐとなりにいる……
電車の中とかで、隣に誰かが立っている時。目を瞑っていても、誰かがそばにいるというくうきを感じることがあるだろう。
同じものを、俺はすぐ真横に感じていた。
一人暮らしのはずなのに…を読んだ感想
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