小学校2年生頃の話です。
当時父は転勤族で、物心ついた時から毎年春先に転勤しているような状態で、腰を下ろしてじっくりと生活することができず、友達と言える子もいませんでした。
母はそんな私を不憫に思ってか、引越し先では児童館やご近所づきあいも頻繁に行い、私に友達ができるようにと頑張ってくれていたのですが、なかなか地元の子たちの輪に入れない生活が続いていたんです。
このときも3月末に引っ越したものの、4月からの新しいクラスになじむことができず、通学はもちろん、帰宅後も一人でいることがほとんどでした。
当時毎年の引っ越しが当たり前になっていたので、父の会社の社宅のマンション暮らしだったのですが、5月頃にお隣さんが引っ越ししてきたんです。
そこのおうちには、みよちゃんというちょっと背の小さな同年代の子がいました。
他のクラスに入るんだろうな、と思っていたのですが偶然にも私のクラスに編入が決まり、お互い転勤族で友達がいないという共通点もあって自然と仲良くなっていったんです。
みよちゃんのおうちは、お母さんも夜遅くまで働いているということで、しょっちゅううちで夕飯を食べたり、お風呂に入っていくようになりました。
最初のうちはみよちゃんのお母さんなりお父さんが、帰宅したらすぐに迎えに来てくれていたのですが、だんだんとうちで夕飯やお風呂を済ませる、お泊りするというのが当たり前のようになってきて、お迎えにもなかなか来なくなったんです。
二か月もするとうちの母がみよちゃんのこと、よく思わなくなってきたんですよね……。
自分のおうちの鍵を持ってるんだから、帰りなさいって。
母が言うと、素直にみよちゃん帰るんですが翌日みよちゃんのお母さんが、うちに文句言うようになってきてからは私は母からおうちで遊ぶのは禁止と言われてしまい、外で遊ぶようになったんです。
多分みよちゃん、今でいうと「放置子」とか「育児放棄」に当てはまる家庭環境だったのかもしれません。
おうちで遊んでいる時は気づかなかったのですが、外で遊ぶようになってから、みよちゃんの発言がなんだかおかしいことに気づきました。
「あそこに大きな猫がいる」
「道路の向こう側に真っ黒い人がいる」
「頭がつぶれている人が、あのおじさんの後ろにいる」
こんなこと言い出すようになったんです。
外で遊んで帰る時間になると、みよちゃんはいつも決まって私にこう言いました。
「私のおうちにはオバケがいっぱいいるから殺される。あなたのおうちにいってもいい?」
正直、「オバケ」と言われてぞっとしましたが、連れて帰ると母が怒るの分かっていたので、毎回母を言い訳に断ってたんです。
みよちゃんと外で遊ぶようになってから、一ヵ月くらい経った頃でしょうか。
みよちゃんのお母さんと日曜の昼間にばったりマンションの入り口であったのですが、何も言わず物凄い怖い顔で睨まれました。
「何だかいやだなぁ、みよちゃん一緒じゃないんだ?」
と、このとき何故かみよちゃんのことが気になったんですよね。
でも怖くて聞けないし、母親同士が仲悪くなってしまったのでみよちゃんのおうちに行くわけにもいかず、何だかモヤモヤした気分で一日過ごしてました。
ある日の夜中、みよちゃんのおうちからドタバタと、大きな物を壁にぶつけているような音と、ベランダからガラスが割れる音が聞こえたんです。
「助けて!殺される!」
びっくりしてベランダに出てみたら、みよちゃんのお母さんが血だらけで半狂乱になってて、お父さんが慌てて家の中に連れ戻そうとしていました。
うちの父が警察と救急車を呼んだそうですが、みよちゃんのお母さんノイローゼか精神的な病気じゃないかって言ってたんです。
翌日、みよちゃんは学校を休んでいました。
学校から帰ったらうちの母が、昼間にみよちゃんのお父さんがきて、騒いだことお詫びに来ていたと聞いていていたときに、玄関のチャイムが鳴ったんです。
誰だろうと思って出てみたら、みよちゃんでした。
でも玄関のドアを開けたとき、なぜかこちらに背中を向けて立っていて、振り向いた顔は血の気が引いて真っ白。
何だか怖い感じだったのですが、にっこりと笑って私に向かって手を差し出したんです。
「遊びに行こう」
子どもながらに、前日お母さんがあんなことになったのにと疑問はあったのですが、きっとお父さんがお母さんの所にいってしまって独りぼっちなんだろうな、と可哀そうになって一緒に遊びに行こうと靴を履いたときでした。
「私子!どこ行くの!!」
母がいきなり背後で叫んで、何かをみよちゃんに投げつけたんです。
そしたらみよちゃんの姿がスーッと消えたんです!
何があったのかわからず私は茫然としていました。
母は泣きながら私を抱き寄せ、玄関のドアを閉めました。
その日の夜、母から聞いた話では前日の夜に、みよちゃんのお母さんがみよちゃんを殺してしまったのだとか……。
そして母は霊感が強い人だったらしく、みよちゃんのお母さんは悪いものが付いていて、そいつのせいでみよちゃんを殺してしまったと、ぽつりとつぶやいていました。
今日の昼間の出来事は、玄関にいたみよちゃんを見てすぐに幽霊だと見抜いて、とっさに台所から持ってきた塩をみよちゃんに投げつけたそうです。
「あの子はあんた以外友達がいなかったから、きっと寂しくて連れて行こうとしたんだね」
そう母は言っていました。
その日と翌日、夢にみよちゃんが現れたのですが、とても寂しそうな顔して私のことを見ていて、最後にたった一言「ごめんね」と泣きながら言っていたのが今でも記憶に残っています。
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