もう40も過ぎたいい年したおっさんなのに、雨の日になると未だにあの時のことを思い出す。
小学校低学年まで、家の事情で父方の祖父後宅に預けられてて、ド田舎のとある村に住んでいたんだが、この体験をしたのは幼稚園の時だったと思う。
小さな村だったんで村中誰もが顔見知り状態で、小学生の子たちと一緒に遊ぶことも多かった。夏はカブトムシやクワガタ、セミ取りや魚釣りなんかもして、冬は雪深い地域だったんでスキーやソリ遊びなんかの雪遊びするのがごく普通だったな。
周囲が山で囲まれていたのもあって、クマやイノシシなんかが出ることもあって、村の大人から入るなって言われている場所が2~3か所あった。
いつもは俺と俺より1歳年下のA子、そしてA子の兄の小学2年生のBと、3年生のC、5年生のDとEっていうメンツで遊んでた。A子以外はみんな男だったんだけど、兄貴がいるからか男勝りで一緒にいても違和感なかったんだよね。
夏休みのある日、いつものメンツで集まったんだけど、ここんとこ同じことばかりでつまらないねー、なんて話してたらDが「北側の川に行ってみよう!」って言いだしたんだ。
北側の川は年寄り連中に「絶対に行くな」って言われてた場所だったんだけど、CとEおもしろそうとか言い出してさ。
俺とA子、Bは親に怒られたくないから行きたくないっていったんだけど、行かないならもう遊ばないとか言われて、しぶしぶついてった。
行くなって言われてたわりに、北側の川までの道は綺麗に整備されてて、車が通った跡があったくらいなんで、大人はよくいってたんだろうね。
特に変化のない山道を10分もあるいたら、開けた場所にでて小さな沢が流れてたんだけど、その沢の近くに赤い小さな鳥居があったんだ。
綺麗に手入れされててたし、祠の戸は開かれていてお供え物もあったんで大人が定期的に手入れしてたんだと思う。
祠の中には石の位牌みたいなものがあったんだけど、何が書かれているかわからなかった。
そして奥にお札みたいなものが張ってる小さな小箱があったんだよね。
子どもながらに自分やA子、Bは開けちゃいけないってわかってたんだけど、怖いもの知らずなDがその箱を手に取っていじりだしたんだよ。CとEも興味津々で中身が気になったみたいで、3人でかわるがわる箱を手に取って見てた。
そして度胸試しとか言い出して、DがEに箱を開けさせたんだけど、箱の中には小さな骨と、文字がにじんで見えなくなった紙が入ってて、C・D・Eが3人そろってつまんねー、とか言ってたのね。
そしたらさ、A子が急に大泣きし出してビックリしてBと俺とでなだめてたんだけど……。
「怖いおばちゃんがいる、こっち来る」
とか言い出して泣き止まなくて全員でどうしよう、って話してたら晴天だったのに急に曇り出して大雨ふりだしたんだよ……。
とにかく家に帰ろうってことで、今日のことは誰にも言わないって全員で口約束して帰ったんだけど……。
次の日も大雨で、外に出る気にもなれなくて部屋で漫画読んでたら昼ころにA子とBの親が俺に話し聞きたいってきてさ。
「怒らないから前日どこにいたのか教えてほしい」
そういってて、じーちゃんばーちゃんも正直に言いなさいって、無言の圧力かけてきて、さすがに言わないわけにはいかなかった。
俺の話を聞いた大人たちは青い顔して、A子とBの親はじーちゃんたちと話をして、どこか行って俺は俺でばーちゃんに村のはずれにある神社に連れていかれた。
お祭りの時しか宮司さんのいない小さな神社だったんだけど、この時はなぜか宮司さんと巫女さんまでいて、村の大人も数人来ていた。
んで社務所みたいなとこからお祓いか何かやるらしい部屋に通されたんだけど、A子が部屋の中央で布団に寝かされてて、Bはその横で座って泣いてた。
しばらくしてC・D・Eも親と一緒にきたんだけど、なぜか全員泣いてたんだよ……。
状況が把握できないまま、全員A子の周りに座らされて、お祓いみたいなことが始まった。
5分くらいたったときかな。
急に寒くなってびっくりしてたら、A子がうめき出してA子の体の上に黒い靄のようなものが見えたんだ。
俺の向いに座ってたEもそれに気づいたのか、俺と一緒に黒い霧みたいの凝視してたんだけど、宮司さんに「見るな」って言われて俺は目をそらした。
けれどずっとEはお祓い終わるまで凝視してたんだよね……。
A子のうめき声が無くなったのと同じくらいに黒い霧が消え、お祓いが終わるころにA子が目を覚ましたんだけど、それと入れ違いのようにEの様子がおかしくなった。
ずっとね、天井見てヘラヘラ笑ってるの。
子どもながらにゾッとするくらい、おかしな表情してさ。
「A子は助かったけど、Eはダメかもしれん」
俺の後ろに座ってたじーちゃんがぼそっとそう言った。
そして大雨が降っていたのに、お祓いが終わった途端雨がピタリとやんでいたんだよね。
結局Eはその後病院に入院したらしいんだけど、俺が村にいる間に戻ってくることはなかった。
大人になって聞いた話だと始終言葉にならない言葉をつぶやいて、精神がやられてしまってるような状態で、自宅に戻ることなく病院で亡くなったとか……。
お祓い後は大人もA子やBも何があったのか教えてくれなかったけど、成人後にじーちゃんが何があったのか教えてくれた。
あの祠に祀られていたのは、昔大雨続きで農作物なんかがやられて村の存続も危うくなって、雨ごいのために生贄にされた歌うたいの旅芸人の女性とその子どもの霊だったんだそうだ。
あの沢、昔は開けていた部分全体が川だったそうだよ。
村から追い出し、旅芸人の女性は子どもを連れていたそうで、子どもは助けるといいながら、親子ともども殺して川に投げ入れたんだと。
本当に神様が願いをかなえてくれたのか、単なる偶然だったのか、その翌日には雨が止んだんだけど、しばらくして雨の日に村の子どもが消えて、川でなくなってるのが発見されるようになったそうだ。
旅芸人女の霊の仕業だと、祠を立てて封印することで事故がなくなってたそうなんだよね。
Eが箱を開けた日、A子は帰宅してからしばらくして行方不明になって、明け方にあの沢で気絶しているの見つかったらしい。
A子が見たっていうの、その女の人の霊だったんだろう。
小学校に上がる前に親元に戻ったので、他の連中に何があったのか、みんながその後どうしているかはわからない。
自分は霊感ないんで、今まで幽霊なんてみたことないけれど、あの一件以来、雨の日になると背後に人の気配を感じるのは気のせいなんだろうかと、いつも思う。
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