【怖い話】前任者から引き継いだもの

短編の怖い話



ブラック企業からやっと脱出できたと思ったら、転職先で前任者からとんでもないモノを引き継いでしまった。
その人、自分がその会社に転職したときはもう3年くらい営業でやってた人だったんだけど、もうね、肌が土色っぽくてちょっと見ただけでも体調悪いのがわかるくらい。
ガリガリに痩せてたんだけど目はなんかギラギラしてるし、受け答えもなんか極端に声大きくてびっくりするくらいで、ちょっとでも気に障ることがあるとすぐ切れる人だったんだけど、お客さんに対しては物凄く腰が低い人だった。
自分が採用されたのはその人の後釜になるためだったので、その人……内山さんっていうんだけど、初日から仕事や顧客の引継ぎで付き合わされる羽目になったんだよね。

営業先は企業だけでなく一般のお客さんもいて大変だったんだけど、意外に仕事に関しては丁寧な人で、お客さんのクセなんかもしっかり教えてくれてたんだ。
入社して1週間くらい経ったころかな。
その日は一般のお客さんの家に行くことになってて、午前中の外回りを終えて午後からの外回りに入る、ってときに内山さん物凄く暗い声で、いきなり数珠なんか持ちだしちゃってさ。
何事かと思ったんだけどただ一言。
「今から行く家、家主以外見るな」
それだけ言ってね、わけがわからないまま連れて行かれたんだよ。
行った先は中心部から少し離れた、民家の少ない地域で古い木造の平屋の家だった。
窓は全てカーテンが閉められてたんだけど、不思議とゆらゆら揺れてて、中に誰かいるのかなとしか思わたなかったんだ、そのときは。
内山さんがドアベルを鳴らすとすぐに気前のよさそうなほっそりとしたおばあちゃんが出てきて、僕らを中に案内してくれた。
居間までは玄関から真っすぐだったんだけど……。
居間に行くまでにあった部屋2つくらいあったんだけど、どれも襖で全て閉められていて妙な気配がしていたのを覚えてる。

居間では他の一般のお客さん宅と同じで、内山さんが辞めること、引継ぎで自分が担当になることなんかを話してたんだけど。
ずーっと視線を感じていて、思わず振り返ったんだ。
自分の背後には廊下をはさんだ向かいに襖があったんだけど、それがほんの少し、5cmくらい開いてたんだ。
その隙間から人の目らしいものが……ひとつじゃなくたくさん見えた。
上から下まで目が並んでるの。
一瞬それが人の目だと思わなくて、何だかわからなくてきょとんとしてたら内山さんとおばあさんが慌てて襖を閉めて、家から追い出された。

車で移動してたんで仕方なく車で待ってたんだけど、家のカーテンの揺れが凄い激しくなってたのに気付いた。
そしてカーテンの揺れが収まってから、内山さんが家から出てきたんだけど、何も言わずに車を運転しだしたかと思ったら、お寺に連れて行かれた。
お寺の和尚さんは内山さんと知り合いだったみたいなんだけど、内山さんが自分に聞こえないように和尚さんに一言、二言話した途端に、慌て出して。
一体何がどうなのか、説明を求めても「あとで説明する」とだけ言われ、本堂に連れて行かれて正座させられ数珠持たされて目を閉じて手を合わせてろって。
あまりにも内山さんと和尚の迫力がすごくて、言われるがまま従ってたんだけど……。
和尚がお経唱えだしてしばらくしたら何だか頭がぼーっとしてきて。
信じられないかもだけどものすごく眠くなったんだよね。
でも寝落ちしそうになるたびに内山さんに寝ちゃだめだと起こされて。
何度目かで思わず目を開けてしまったんだけど、自分の前でお経を唱えている和尚の後ろに、無数の目の付いた黒い塊が浮いてたんだ。しかも触手みたいの何本かあって。
慌てて目を閉じようとしたんだけどひとつの目と自分の目があってしまって気を失った。

気付いた時はお寺の奥の部屋で布団に寝かされていたんだけど、とんでもないことになっていた。
あのおばあさんの家にいたものと、お祓いをしていたときに自分が見たもの同じだったんだけど……。
あのおばあさんの家、代々地域の「ケガレ」をとどめておく場所の管理をしていて、居間の向いにあった部屋にアレがいたらしい。
アレはケガレが凝縮したもので、悪意あるものだとか……。
しかもあの一族だけでは足りずに、気の合う者や取り込みやすい者に憑りついたり、影響を与えるっていう厄介なものだったらしく……。
内山さんが今のような状態になって会社を辞めることになったのも、アレが原因だったと聞かされてびっくりした。

自分はどうなるのかと怖くなって聞いてみたものの、和尚にもわからないと。
内山さんの場合は頻繁にアレの幻覚を見たりしていたのが、最近は時々声まで聞こえるようになったとかで、精神力をそがれて体調を崩してしまったそうで、アレから離れるために会社を辞めて遠くに行くとか。
目が合ってしまったことを話すと、和尚は深いため息をついて言った。
「多分アレは内山さんがこの土地を離れるのを知ってたんだろう。それで引継ぎにきた君に目を付けてしまったんだろうね」
そして効果がないかもしれないが、と気休め程度にお札やお守りをもらい、毎月お祓いに来るように言われた。

その後内山さんは予定通りに退職したんだけど、引越しの2日前に急性心不全で亡くなったって話を上司から聞いた。
自分は……今のところは何となく妙な気配感じることがあるけれど幻覚までは見ていない。
お守りやお札のおかげかな、と思ったんだけど……。
最近彼女が変なんだよね。
自分たちしか家にいないのに、窓の外から誰かが見てるとか、俺の後ろに目がたくさんある人がいるとか言い出すの。
多分、妊娠したのがわかって精神的に安定してないだけだと思うんだけど、まさかあのケガレがお腹の子どもや彼女を狙ってるとかってことないよね?



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